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「…おいテメェ、誰のモンに触ってやがんだ?」
「…っ!?」

 息を飲む音がした。ぎりぎりと痛そうな音は、茶髪の男の腕から聞こえる。僕は上を見上げて、乾いた笑みを浮かべた。

「…帽子屋」
「クソネコよぉ、そんなに殺されてぇかァ?」

 イカレ帽子屋は中々に機嫌が悪いようだった。僕をギロリと睨むと、茶髪の男を蹴り飛ばした。数メートル飛ばされた男を見て、皆顔を青くする。茶髪の男は……気絶、しちゃったかな? かわいそうにねえ。そう思っていたらレンが苦笑していた。そんなこと思っていないくせに。そう言いたそうな顔だ。

「弱ぇ…」

 あからさまにがっかりとした様子で呟く。

「…だ、誰ですか、あなたは」
「ハァ? テメェこそ誰だ。あのゴミクズの仲間かァ?」
「ご、ゴミクズ…」

 副会長さんは顔を引き攣らせて茶髪の男を一瞥した。あの人は兎も角、副会長は蹴られたらそのまま死んじゃいそうだなあ。勿論分かってるだろうけど、一応僕は咎めるようにイカレ帽子屋を見た。にやりと笑ったから、分かってるんだろう。このまま帽子屋の機嫌が直ればいいなと思っていると、イカレ帽子屋に近づいてくる人がいた。

「ボーシヤ! 友達になんてことするんだ!」

 ……あー、えーと、カズマ。あんまり余計なこと言わない方がいいよ。茶髪の男みたいになりたくないんならね。

「ア゛ァ? 殺すぞ」
「…っそ、そんなこと言っちゃだめなんだからな!」

 あ、やばいな。僕はイカレ帽子屋の腕にするりと腕を絡ませる。ぴくりと動いた腕から力が抜けて、イカレ帽子屋はふんと鼻で笑った。

「分かってるっつーのに」

 ……ほんとかねえ?

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