彼らと(虎の尾を踏む)

 目の前までやってきたカズマを見下ろしながら、相変わらず、真っ黒だなあと思った。

「元気だね、カズマ」
「おう! 元気だぞ! 俺は風邪なんて引いたことないんだ!」
「へえ、そうなんだ」

 笑みを浮かべながら答えると、カズマは嬉しそうに――顔の半分が隠れているから恐らくだけど――顔を綻ばせた。

「お、おい、カズマ」
「あっ、なんだ、隆一、いたのか!」
「いたのかって…」

 存在を認識されていなかったらしいりゅーいちくんが顔を引き攣らせる。そういえば、りゅーいちくん、カズマのことどうするつもりなんだろう?
 まあどうでもいいかと思ったとき、カズマが飛びついてきてぎゅっと抱きしめられる。ん? と首を傾げる僕。口を大きく開け、なあなあと声を出す。視界の端でりゅーいちくんが変な顔をしていて面白い。

「さっきのやつはどこに行ったんだ!?」
「さっきのって、帽子屋のこと?」
「ボーシヤっていうのか! そうだ、ボーシヤのことだ!」

 なんだか発音が違う気がするけど、ま、いいか。

「帽子屋は僕の部屋にいるよ。…それで、僕に何の用?」

 口を弧にしてカズマに笑いかけると、カズマの顔が赤くなった。ううん、可愛くないなあ。面白いといえば面白いけど。

「そうだ! 琉生と遊ぶから、チェシャも一緒に遊ぼうぜ!」
「遊ぶ? 僕と?」
「ああ!」
「ふうん」

 別にいいよ、と答える。イカレ帽子屋たちを放置するのはちょっと不安が残るけどね。
 ところで琉生って誰だろう?

「はあ!? 行くのかよ!」

 りゅーいちくんが声を荒げて、僕を睨んだ。

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