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 まあそんなこんなで俺はこの狼男と接触を果たしたのだった。何故家にいるのかというと。「こいつは禁忌を犯してな」「お前もこいつ狙ってたんだろ」「オレサマが倒したんだし、オレサマに感謝すんのは当たり前だよな?」禁忌って何のことだよと思いながらそいつの足元を見る。確かにそいつは元村だった。もう人の体とは形容しがたいそれを足で右に退けた。どうして俺が元村を狙っていたのを知っているんだと驚くと、そいつは当然だという表情で紙を俺の目の前に突き出した。それは同僚から貰った元村の個人情報と顔写真が載っている。慌ててポケットを探ると確かに紙はなくなっていた。…いつの間に。
 それにしても何でお前に感謝するとかそういう話になるんだ。嫌そうに顔を顰めてみるけど、それは無駄だと早々に諦めて首を垂れた。
 そして住処がないらしい狼男はオレサマを住まわせてやる、早く案内しろと意味不明なことを言った。













「おいカネトリ」
「…何だよ」
「茶だ」

 殺意が湧いた。だから何でお前そんなに偉そうなんだよおおおお!

「おい、茶だ」
「ってぇな! わーったよ! だから蹴るな!」

 只管無視していると狼男は俺の背中をげしげしと蹴る。手加減してるのかしてないのかは分からないが取り敢えず痛い早く退け!
 足を振り払うように立ち上がると、満足げに笑うそいつ。憎たらしいが、やはり格好いい。俺の親友を草食系男子だとするとこいつは肉食系だ。思わず見惚れてしまう。隠すように背を向けたが、ひゅう、と口笛が聞こえる。くそ、と舌打ちした。
 俺はまあまあ人並みに家事はできる、と思う。あいつが余程の味音痴か旨いものしか食べないお坊ちゃまでなければ不味いとは言わない筈だ。茶を入れ終わって持って行くと奴はふんぞり返ってソファーに座っていた。うわあ、腹立つこいつ。

「ほれ」
「おー」

 感謝の言葉もなしにお盆に乗せた茶を奪い取り飲み始める。俺は溜息を吐いて向かいのソファーに座った。狼男はそれを片眉を上げて見つめてきたが、何も言うことはなかった。

「ふん、まあこんなもんだろうな」
「お前なあ」
「ところで」

 狼男は目を細めた。

「お前は何でオレサマと対等のようにそこに座ってんだ」
「……はあ?」
「オレサマの足元に座れよ」
「…なっ、!? ふざけんじゃねえ!」
「ふざけてねえよ。いいか、お前は」

 怒りが体中から沸々と沸いてきて、堪らず体を浮かし、殴る体制に入った。それを侮蔑した様子で見ている狼男は、大きく舌打ちした後に、立ち上がり、そして長い足を上げた。その行動に眉を顰めると奴はニヤリと嗤った。何を企んでいるのかと一秒も目を離さず見ていると、視界から消えた。目を瞬いて、次にしまったと思ったときには目の前にいる奴が足で肩を押した。それは本当に軽くだったが、突然のことに俺の体は簡単に後ろに倒れていく。

「お前は、オレサマに適わない」

 見上げれば、鋭利な歯が光を浴びて煌々と光った。

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