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 俺は空気のような存在だった。容姿も家柄もそこまで良くなくなかったので、それらを重視するこの学校での地位はおそらく最低かそれに近いもの。一応友達はいるが、大体は俺のことを下に見ているので、クラスメイトから雑用を押し付けられることもしばしば。慣れてきて苦じゃなくなったにせよ、いい加減にしてほしい。しかし俺が反発すればやれ家がどうなってもいいんだ、やれこれだから底辺は駄目だと煩い。最近はなんでも転入生が見目麗しい人気者たちを虜にしてるとかで学校中が騒がしく、親衛隊と呼ばれる集団も一層刺々しい。転入生は人気者たちのガードで手が出せないらしく、そのイライラを俺にぶつけてくる。もう一度言う。いい加減にしてほしい。
 今日も掃除を押し付けられて、一人で教室を掃いていた時。教室のドアが勢いよく開いた。部活に行った友人が俺を気にして戻って来たかもしれない、いやそれとも誰かが忘れ物をしたのかも。過去に何度かあったことを思い出しながらドアの方を向いて、硬直した。

「よお」
「……か、会長?」

 しかしそこにいたのは友人でもクラスメイトでもなく、恐ろしく顔の整った、俺様で遊び人だと有名かつ人気であるこの学校の生徒会長様だった。初めてこんなに近くで端正な顔に俺はしばし見惚れた。

「お前、圭に制裁しただろ」

 言われたことを理解するのに数秒かかった。圭とは誰だろう。もしかして、今話題の転入生の名だろうか。そういえば会長も惚れているとかなんとか。圭が転入生だとして、どうして俺は制裁したと思われているんだろう? まず、俺は男は好きじゃないから制裁する理由がないし、圭がどんな見た目なのかもよく知らないのに制裁できるはずがない。それに、どうして俺が疑われているのかも気になる。クラスメイトで親衛隊の奴と話しているところを見られ、会話の内容が転入生の愚痴だと分かり、それで俺も親衛隊だと思われたとか? あり得ない話ではない。こういう人って勘違い多そうだから。

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