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「ああ、一応言っておくと俺の名前は朝丘友晴な」
「鮎田翔。アサも苗字から取ってたんだな」
「捻りがなくて悪かったな」

 ニヤリと笑うアサに苦笑が漏れる。

「それで、キュウとKONにも言うのか?」

 頷くと、アサは笑った。あいつらなら許してくれるだろうよ、と。俺もあいつらならと思っていたが、やはりどこかで不安だった。その不安は、アサによって払拭された。俺は亜由のアドレスで二人にメールを送る。

『近い内に会えない? 話があるんだ』

 緊張で震える手を押さえてポケットに仕舞うと、アサを見上げる。

「有難うな、アサ」
「イーエ。そうだ、俺さ、お前が亜由だった時からずっと好きだから。じゃあな」

 ニッと口角を上げて去って行くアサを見送り、言われた言葉を思い出して首を傾げた。亜由だった時からずっと好き…? え? ええ? 時から、ってことは…。

「今も、好き…?」

 いやいやいや、俺は男だぞ。きっと冗談に決まっている。うん、冗談だ。アサなら平気で言いかねない。
 そう思いながらも、俺の顔は熱を持ち続けた。













 待ち合わせ場所には、もうキュウとKONがいる。数日前の喫茶店だ。俺は制服のまま入って、数日前と同じように待ち合わせだと店員に告げる。

「どうも」
「え?」

 声をかけると、二人は話をやめてこっちを見た。そして、どうしてと言いたげに丸くなる目。俺はぎゅっと顔を歪めて、呟いた。

「謝らなきゃならないことがあるんだ」
「謝る?」
「……亜由は、俺、なんだ」
「……、…え?」
「ごめん、ずっと騙してた。ごめん」

 頭を下げる。近くの客が俺を不審そうに見た。二人が一体どんな表情をしているんだろう。軽蔑したかな。それとも怒っているかな。アサみたいに、笑う…かな。

「やっぱりね」

 キュウが困ったように笑う。顔を上げてよ、という言葉にゆっくり顔を上げた。KONは困惑したようにキュウを見ている。俺も、恐らく同じような表情をしている。

「何となくそうじゃないかと思ってた」
「えっ!?」

 目を見開く。KONがマジかよと呟く。

「僕は気にしないよ。亜由ちゃんも翔くんも好きだから」

 好き。その言葉に思い出したように顔が熱くなる。俺の赤くなった顔にキュウは一瞬目を見開いて、次いで綺麗な笑顔を浮かべた。会ってから一番破壊力のある笑顔だ。

「おっ、俺も! 俺も好きだし!」

 KONも慌てたように加わって、俺は擽ったさに顔を赤くしたまま笑う。――と、そこで腕を誰かに引っ張られ、体が傾く。ぽすりと誰かに密着する。

「駄目。これは俺の」

 ぎょっとする。アサだ。何でアサがここにと思いながら見ていると、先程のキュウに負けないほど綺麗な笑顔を浮かべた。更に顔の温度が上がる。

「お前らがどういう意味で言ってんのかは知らねえけど、俺はマジだから」
「…ここにいないと思ったらアサは知ってたわけか。それにその制服…」

 KONが俺とアサを交互に見る。なるほど、と悔しそうな顔をする。俺には意味が分からなかったが、横でアサが鼻で笑ったから、アサには意味が分かっているんだろう。

「言っておくけど、俺が一番亜由ちゃん…か、翔と長い付き合いなんだからな」
「そんなの関係ねえし。俺なんかなあ…」

 KONとアサが睨み合いながら言い合いをしている。その内容の分からなさに首を傾げていると、キュウが俺の手を取った。その姿は本当に王子様みたいで、不覚にもドキドキとする。

「好きです、翔くん」

 じっと見つめられ、俺はあまりの恥ずかしさにその手を振り払って喫茶店を飛び出した。
 亜由として接しなくていいことに浮かれていたが、また別の大きな問題が浮かび上がっていたことに、その時の俺は気づかなかった。










fin.


鮎田 翔(あゆた かける)

平凡な高校三年生。
ネカマだった。HNは亜由。

朝丘 友晴(あさおか ともはる)

高校三年生。誰もが恐れる不良だが、普通に優しくフレンドリー。見た目で損をしているタイプ。
翔(亜由)の友達でHNはアサ。

錦山 隼人(にしきやま はやと)

高校二年生。爽やか少年で、実際にバスケをやっている。スタメン。
友達が多く、ネット上でもリアルでもムードメーカー。
翔(亜由)の初めての友達でHNはKON。狐が好きでこの名前にしたらしい。

九条 雅人(くじょう まさと)

実は大学生。王子様オーラで魅了された人は山ほどいる。無自覚ではなく、割と策士な面もある。
翔(亜由)の友達で、HNはキュウ。九条の九から付けた。


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