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 ゆっくりと鋭い目が俺を捕らえる。喉に言葉がつっかえて何も出ない。
 バレた。バレてしまった。さあっと血の気が引き、般若と化したアサの顔を見ないように俯く。

「……どういうことだか、説明してもらおうか」

 アサは亜由のアドレスのフォルダを開き、俺にそれを向ける。

「……ごめん」

 それしか言えなかった。もっと言うべきことはたくさんあると思うけど、俺はもう一度謝った。

「ごめん」
「…ッチ、もう謝んなくていいから顔上げろよ」

 恐る恐る顔を上げると、苦笑したアサが目に入る。ホッとして体の力を抜いた。同時に、ちゃんと言っておけば良かったと後悔した。今更後悔しても遅いんだけど。

「で、翔。お前は亜由なんだな?」
「…ああ、そう。俺が亜由」
「学校が一緒ってのは知ってた?」
「いや、全然。凄く驚いた」

 こんな目立つ人物何で知らなかったんだろう。女子にも男子にも教師にも有名そうなのに――。アサは肩を竦め、小さく笑った。

「だと思った。まあ俺サボってばっかだから、すれ違うこともなかっただろうよ」

 お前クラスは、と問われ、不思議に思いながらも答える。三、三、と何度か俺のクラス番号を呟いて渋い顔をする。溜息を吐き、髪を掻き上げた。その一連の動作は美形がするからか、とても格好良くて思わず見惚れる。

「俺確か二だったよなあ…。あー、くそ、惜しい」

 残念そうに言うアサに疑問が浮かぶ。

「どうして」
「あん?」
「どうして何も言わないんだ? だって、俺…」
「どうしてって、別に俺にとっては性別なんかどうでもいいからだよ。あー、でもある意味悪いか? まあそれは俺の問題だし、俺は寧ろ昨日会った翔のことを気に入ってたし、翔が亜由で良かったって思った」
「アサ…」

 じわりと視界がボヤける。泣くなよ、なんて苦笑しながらアサは俺の背中を軽く叩いた。優しい大きな手だった。

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