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 以前アサが俺と会っても引くなよと言っていたのを思い出す。その理由はこれだったのかと今更分かった。俺はてっきり見た目に自信がないのかと思っていた。もしかしたらこの外見で自信がないのかもしれないけど、流石にその可能性は低いか。眉間の皺で大分損しているけど、俺に比べれば何十倍も端正な顔立ちだ。

「あ、そうだ――」

 アサが口を開く。どんな言葉が来るか少し警戒していたが、アサの言葉は遮られた。

「すみません」
「え?」

 横から声が聞こえ、俺とアサは一斉に横を見る。そして二人揃ってぎょっとした。お、王子様だ…。神々しいオーラを放った王子様がいる。ガン見していたのか、王子様は少し引きながら、あの、と声を出した。

「KONとアサ…ですか?」

 瞬時に理解する。こ、この王子様がキュウだ。信じられない気持ちで一杯になっていると、更に後ろから声がかかった。

「KONは俺だけど?」

 そう言って笑ったのは、スポーツでもやってそうな短髪の美形だった。俺は卒倒しそうになる。何このメンツ。何で美形しかいないの。凄い疎外感だ…。

「……え、ええと…?」

 キュウは混乱したように俺たちの顔を見る。KONも不思議そうに首を傾げている。

「俺がアサだ。んでこいつは亜由の兄貴だってよ」

 席を詰めながらアサが俺を指差す。俺も慌てて席を移動する。チラリとキュウを見ると、眩しい笑顔で礼を言って隣に腰掛けた。それを見てKONもアサの隣に座る。

「何で亜由の兄貴が?」
「亜由体調悪くなったんだと。ここまで来てもらって追い返すのも悪いし、同席させてもいいよな?」

 アサ何ていいやつなんだ。ギャップ萌えってやつか。でも、二人はどう思っているか分からない。ハラハラしながら俯いていると、キュウが笑う声が耳に入る。

「勿論だよ。全く知らない人だったらちょっと嫌だけど、亜由ちゃんのお兄さんなんでしょ?」
「うんうん。だから顔上げろって」

 俺は勢いよく顔を上げる。KONもアサも、キュウも――笑っていた。胸がズキズキと痛んで泣きそうになる。俺はぐっと堪えて、笑った。アサは一瞬目を丸くしたが、直ぐに笑みを浮かべる。

「それで、名前は?」
「え、あ、か、翔」

 言ってからハッとする。思わず本名言ったけど…、だ、大丈夫だよな? フルネームってわけじゃないし、うん。

「翔ね。改めまして、俺がアサ」
「キュウです」
「KONっす」
「は、はい…」

 何だか擽ったくなりながら、俺はぎこちなく笑った。

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