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 数日が経って、早くもオフ会の日となった。俺は緊張で顔が引き攣る。待ち合わせの喫茶店の名前とテーブルの場所を再度確認して、俺は店内に足を踏み入れる。

「いらっしゃいませー」

 爽やかな店員の声にも顔の強張りは解けず、待ち合わせしているということとテーブルの場所を告げる。そんな俺を不思議そうに一瞬見て、直ぐに笑顔に戻ると案内してくれた。
 ――え。俺は引き攣った顔を更に引き攣らせた。席に座っているのは一人。携帯をじっと見つめている。いや、そんなことはどうでもいいんだが、ワックスでほどよく固めた金髪、顔中の至る所にピアス、ぐっと眉間に寄った皺と鋭い眼光。……どこからどう見ても不良だ。
 店員さんは笑顔のまま下がっていった。いや、ちょ、え? ここの席であってんの!? 間違いない!? 青ざめながらテーブルに取り付けられているプレートの番号を見ると、確かにそうだ。
 ……これは、誰だ? もしかして、違う人に席を取られたのではないか? 兎に角、確かめなければならない。俺は意を決して口を開く。

「あ、あの」
「あ゛?」
「ひっ…」

 睨まれて小さく悲鳴を漏らすと、ハッとしたように不良が目を逸らす。バツの悪い顔をした後、頭を掻いた。

「わりぃ……えーと、アンタ、この席にこの時間に来るってことは、KONかキュウか?」

 ――間違いない、アサだ。そして当たり前のように俺の名前がそこにはない。つきりと胸が痛んだ。

「あ、いや…俺は、その、代理、で」
「は? 誰の?」

 アサの顔が訝しげになる。俺は悲鳴を上げそうになるのを抑えながら、小さく答えた。

「亜由は妹で、…今日、体調崩しちゃって」
「亜由が?」
「す、すみません。俺なんかが来ちゃって」
「…まー、会えねえのは残念だけど、…ふーん? アンタ、亜由の兄貴か。幾つ? あ、その前に座れよ」
「えっ」

目を丸くする。何だか見た目と違って気さく…。いや、それは知ってたけど、俺は部外者という立場なのに、座れと言ってくれるなんて。直ぐに追い返されると思っていた。俺は早く座れという視線に耐え切れなくなって、向かいの席に座る。
 
「で、幾つ?」
「あ、えっと…十八」
「…ん? 亜由も十八じゃなかったか? 双子?」
「ああ、そうそう」

 喉が異様に乾いて、先程店員が持ってきた水を飲む。じろじろとアサに見られて居心地が悪かった。言っておくが、俺には妹なんていない。

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