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「あー! ちょっと! それは卑怯でしょ!」
「うわ! 落ちた!」

 ぎゃあぎゃあと煩いのは了と御手洗だ。しかし決して俺たちが静かにゲームをやったのかと言うと、そうではない。普通に俺たちも騒いでる。まあ、こいつらは騒ぎすぎだと思うけど。
 楽しいなと思った。何も考えずにただ騒いで笑うのは楽だった。
 俺はアイテムを見て、にやりと笑う。順位は二位。前を走っているのは御手洗。俺はアイテムを使うボタンを押した。ドヤ顔をしていた御手洗がさっと顔色を変える。

「嘘だろ! ゴール前でそれはないだろ! げ、抜かれた!」

 俺は御手洗の横を通り抜け、一位でゴールした。よし、とガッツポーズする。対する御手洗はがしがしと髪を掻いて項垂れていた。

「あー! くっそ、負けた!」
「え、もうゴールしたの? 千尋速すぎ!」

 そう言う了の順位は十二位。おい、コンピューターにすら負けるって。思わず苦笑する。真剣にはやっているが、さっきから落ちまくって前に進んでいないらしい。

「あーもうだめ! これ絶対ゴールできないよー」
「諦めんなって、まだ抜かせる距離やろ」
「えー、そっかなあ」

 ちなみに一は五位でゴールしている。なんとも反応しづらい順位だ。一応上位ではあるけどな。
 俺たちは了を応援しながらプレイを見つめる。そして、レースが終了する。了は――十二位だ。一回は抜いたが、ゴールする直前でバナナに引っ掛かってしまったのだ。

「あああ…」
「下手くそ」
「うるさいなー」

 千尋慰めてー、と俺に抱き着いてくる。俺はその直後、了に告白されたことを思いだし、硬直する。顔に熱が集まるのが分かった。

「……? どうした、杷木」
「い、いや、何でも…」

 急に顔を赤くした俺が気になったらしく、一が訊ねてきた。なんでもという顔はしていないと思うが、一は不思議そうな顔をするだけで、それ以上訊いてこなかった。御手洗は俺と了を交互に見て、眉を顰める。何だか面白くなさそうな顔だ。
 了は俺の顔を見て、にや、と笑う。

「なになにー、もしかしてちょっと脈あり?
「煩い。離れろ」

 俺は了の頭をグーで殴る。頭を押さえた了は痛みを訴えながら渋々と俺から離れて行った。息を吐いて、首の裏を掻く。

「よし、もう一レースしようぜ」「おう」

 御手洗の言葉に頷き、コントローラーを握る。それから数時間、俺たちはゲームをし続けた。
 
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