御手洗の部屋にて

 一も御手洗も何か言いたそうな顔をしていたが、俺は何も言わなかった。いつか、了
のように俺のことを話す日が来るかもしれない。それまで待っていてくれ、と心の中で語りかけ、俺は部屋に入った。

「で、なにするんだ?」
「…あ?」

 御手洗が不思議そうな顔をした。俺はに、と笑ってテレビを指す。

「ゲーム、やるんだろ」
「ゲームって、お前…」

 俺の言葉を聞いた御手洗が苛立ったような声を上げる。そして大股でこっちに向かって来たのを、一が手で制した。

「やるか、ゲーム」
「おい、一」
「俺も気になっちょーが、無理には聞きたくないけん」

 一はそう言うと、テレビの前のソファに座った。来いよ、と視線で促してくる。御手洗は俺と俺の後ろにいるであろう了を睨むように一瞥すると、小さく舌打ちした。

「…ッチ」

 そしてそれ以上何も言わず、一の方へと向かう。その背中からなんとも言えない感情が伝わってきて、俺は俯いた。

「…サンキュ」

 小声で呟くと、右手に何かが触れた。

「泰くん、大丈夫?」
「ああ……っと、お前、人がいる時は千尋って呼べよ」

 危ない。今のを聞かれていたら、どういうことだと問われることになる。咎めるような視線を向ければ、了はハッとした顔をして口を押さえた。

「…き、聞かれてないよね?」
「大丈夫だろ。…ま、気をつけてな」
「うん!」

 元気よく返事をした了にくすりと笑みを浮かべ、俺たちも御手洗の後を追った。御手洗はテレビの前で蹲んでいて、何かをごそごそと扱っている。

「…何やってるんだ?」

 御手洗は振り向かないままゲームを探してる、と言った。…おお、結局やるのか。

「何やるの?」

 了も興味津々の様子で御手洗の手の中を見る。箱の中から出したのは、赤い帽子に大きな鼻のヒゲたちが出てくる某レースゲームだった。
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