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「もしかして、知ってんのか?」

 守山が肩を掴んでくる。守山は杷木の担任だ。知っていた方がいいかもしれない。しかし、俺は首を振った。

「知らねえ」
「……ホントかよ?」
「ああ」

 俺は大きく頷く。このことは確証を得るまで話さないようにした。いや、調べれば分かる話だが。信じがたい話だ。俺だって信じられねえ。だが、本当だったとしたら…あいつは、もう死んでいる…?
 頭が混乱してきた。俺は守山に気づかれないように小さく舌打ちした。

「兎に角、杷木にも話を…」
「やめとけよ」

 俺を押し退けて屋上のドアを開けようとする守山に制止をかける。守山はム、と顔を顰めた。

「テメェと会ってからおかしくなったんだろーが。会ってまた首絞めたらどうすんだよ」
「だが…」
「つーか、都合良いんじゃねえの。杷木を庇うどころか虐めてたのに」
「それはお前もだろ」

 ぐ、と言葉が詰まる。全くその通りだ。自分がやったことはどうやっても消せない。

「……、まあ、そうだな。授業もあるし、戻る」

 力なく笑うと、哀愁を漂わせながら階段を下りていく。俺はその背中を見て、溜息を吐く。守山は杷木のことを結構敵視していたような記憶がある。それが今では杷木に関わりたがっているのは…罪の意識か、それとも。
 杷木に関わりたがっているっつーか、気になってるのは俺も同じだ。あいつの笑顔が頭から離れなくて、もう一度見たいと思って――って。

「いやいやいや」

 俺は何を考えてんだよ。今、それどころじゃねえってのに。
 屋上の扉を一瞥し、階段を下りる。杷木に会ったら言う言葉が見つからない。出てくる前にここを去らねえと。カツカツと音を鳴らしながら、ポケットに手を突っ込む。携帯を取り出し、アドレス帳から名前を探して着信する。プルルル、というコールが数回。ぷつっと音が切れて、俺は口を開く。

「俺だ。――調べて欲しいことがある」
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