了と二人で

 俺は屋上に寝転んだ。ジリジリと太陽の熱を浴びたコンクリートは酷く熱かった。了も隣に寝転ぶ。それと同時に俺は口を開いた。

「俺さー…実は、杷木千尋じゃねーの」
「えっ!?」

 目を見開いて間抜けな顔で俺を見るもんだから、俺は思わず笑みを漏らした。了は恥ずかしそうに顔を背ける。

「俺の名前は本生泰って言って…杷木千尋とは別人だ。気がついたら俺は、杷木千尋になってたんだけど」
「え…えっと、どういうこと? じゃあ本当の杷木千尋はどこに…」
「分かんない」

 ふ、と自嘲を浮かべれば、了は勢い良く体を起こすと、何かに気づいたように顔を強ばらせた。俺は首を傾げて問いかける。

「何?」
「……いや、なんでもない。千尋――じゃないか、えっと、泰くん?」

 久しぶりに呼ばれた本名。嬉しいと思ったのは一瞬で、言い知れぬ複雑な想いが俺の中に残った。意味が分からず料に気づかれぬ程度に眉を顰める。

「泰くんはいくつなの?」
「え? えーと…十八、だけど」
「えっ! 年上!」

 すっかり忘れていたが、俺はもう高校を卒業していた気がする。十八歳なのかは、……確信は持てないが、多分、そうだったと思う。
 それより、と俺はブツブツ呟いている了を見る。信じられないとかなんとか聞こえるが、俺が年上ってことがそんなに意外だったのだろうか?

「…お前、信じてくれんの?」
「え? そりゃ、だって、ちひ――泰くんが言うことだし」
「は?」
「あんなに思い詰めてる泰くんが嘘吐いてるなんて思えなかったよ。それに、俺に話してくれて嬉しかったし」

 えへ、と笑う了に涙が出そうだった。了は杷木千尋じゃなくて、本生泰を見てくれている。それが無性に嬉しかった。

「……ありがと、了」
「っ、うん!」

 了に笑いかけると、了は真っ赤になって笑った。どうして真っ赤に――…ん? あれ?
 俺ははたとあることに気がつく。いや、気づくっていうか思い出した。さっき、俺了に抱きしめられた時に好きだとか言われなかったっけ? しかも何か告白みたいな雰囲気で。
 じわじわと恥ずかしさが広がって、顔に熱くなる。

「え、あれ? どうしたの、泰くん」

 不思議そうに首を傾げる了に慌てて言った。

「あ、暑いから! 日差しが!」
「ああ、確かに暑いもんねー。戻ろっか〜」

 立ち上がる了に続いて俺も体を起こす。……誤魔化せて良かった。
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