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「それにしても、随分と顔つきが変わったね」
「それは…」
「いや、いいんだよ。警戒することはとても重要だからね。でも、何があったのかは知らないけど、心配してる人にまで牙を向くのはいけなんじゃないかな」
「心配してる? ……誰がだよ」

 俺はチッと舌打ちをして小笠原さんを睨んだ。肩を竦めて苦笑した小笠原さんが分かってないなあと言った。
 分かってない……? 分かってないのはあんたらの方だ。

「あのねえ、そんな顔されても、言ってくれなきゃ分かんないんだよ。言わずに分かってくれ理解してくれなんて、子供の我儘だ」

 小笠原さんはほとほと呆れたというような様子で肩を竦め、溜息を吐いた。カッとなって思わず腕を振り上げる。頭の冷静な部分がヤバイと警告を出したが、腕の勢いは止まらない。小笠原さんはどうしてか口角を上げて俺を見ていた。――或いは、俺の後ろを、かもしれない。

「暴力はいかんな」

 腕を誰かに掴まれた。ひんやりとした手のお陰で先程より冷静になる。俺は恐る恐る振り返った。お洒落な黒縁眼鏡をかけた美形が俺を見下ろしている。

「話は終わったのか?」
「いーや、まだ」

 はああと眼鏡が長い溜息を吐く。それを不満そうに見上げる小笠原さん。俺は目を白黒させた。

「アンタ、は…」

 探るような目つきで男を見上げた。眼鏡は目を丸くして、小笠原さんを呆れた目で見る。対して小笠原さんは明後日の方向を向いて知らんぷりしている。

「おい、説明しなかったのか」
「ええ? したよ、うん、したした」
「じゃあ何でこの反応なんだ。あと人と話すときはこっちを向け、小笠原」
「鳳くんが睨んでくるからじゃないか。その刃物みたいに鋭い目、どうにかしたら?」
「生まれつきだ、悪かったな」

 二人の黒いオーラを纏った会話をぽかんと見守る。――鳳、とは。……先程、聞いたばかりの名だ。

「風紀委員長の鳳健也…?」

 言い合いを続ける二人が俺が呟いた言葉に反応する。一気にこっちを向いたのでびくりと体が震えてしまった。

「ほら、だから言ったじゃないか」
「……そうだ、俺が風紀委員長の鳳健也だ。会うのは初めてだったな」
「ちょっと、なかったことにするんじゃないよ」
「悪かった、という一言じゃ済まされないだろが、別に許してもらうつもりはない。そして、お前の意思がどうであれ、俺たち風紀はお前を守らせてもらう」
「だから、俺にはそんなの――」
「聞こえなかったか? お前の意思がどうであれ、と俺は言ったんだ」

 獲物を狩るような目で睨まれ、俺は黙る。鋭い視線に耐え切れなくなって顔を逸らすと、頭に手が乗った。ごつごつとした、男らしい手だ。

「すまないな」

 何に対して謝ったのか、俺には分からなかった。
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