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 俺を監視するという行動に警戒を示すと、小笠原さんはうんうんと頷いた。

「僕を警戒するのはマル。でも安心してよ。僕は頼まれてキミを守ってただけだから」
「頼まれて……。探偵部の依頼か?」
「いいや。そもそも探偵部っていうのは怪しまれない為だからね」

 首を振ってそう言った小笠原さんに眉を寄せる。怪しまれない為? 一体何を怪しまれるというのか。
 俺の疑問を感じ取ったのか、小笠原さんは小さく笑いを漏らす。

「僕は話が通じないって言われたでしょ? それだよ。そうすると僕に近づく奴はぐんと減る。それに、守る対象が――例えば、キミみたいに整った顔の人じゃなかったとするでしょ? 普通に近づいたらその子は制裁対象になっちゃうけど、探偵部としてなら別だ。皆僕の気ままさを理解してるから制裁なんて起こらない」

 ――なるほど、と思った。確かにそれだと、またか、と思うだけで終わるだろう。だが、それはいいとして、どうして俺を守る必要がある? 俺は口を開いた。

「で、誰に頼まれたの」
「鳳くん」
「は? 鳳?」

 誰だよ。
 俺の顔を見て、小笠原さんはああそうだったという顔をした。

「そういえば記憶失ってからまだ会ってないんだったね。鳳健也くん。風紀委員長だよ」
「風紀委員長…」

 風紀委員長……そうだ、風紀委員長は杷木千尋が虐められていた時、一体何をしていたんだ。杷木が追い込まれる前に助け出してたら、俺は、俺はここにいなかったのかもしれないのに。まだ会ったことのない風紀委員長を想像し、ぶわりと嫌悪感が湧く。じゃあ、こうして監視しているのは罪滅ぼしとでも言いたいのだろうか。

「守って貰わなくて良い。俺は弱くない」

 突っ撥ねると、初めて小笠原さんが笑みを崩した。仮面のように笑みを貼り付けていた先程より人間らしさの出た表情だ。

「そうだね、キミは前の杷木くんよりも強い。精神的に、あと身体的にもだろうね。だけど、キミは分かってないよ。ここがどれだけ恐ろしい場所であるかを」
「恐ろしいって、」
「五人」
「え?」
「キミを尾けていた人数だよ」

 背筋がぞくりとした。――尾けられていた? 誰に? ……どうして?

「いいかい、キミは顔を出したことで認めた人が多い。だけどそれだけ敵が多いということも覚えておいて。…そうだな、キミは会計くんと仲が良いそうだね。彼の親衛隊隊長に注意が必要だ」
「了の…親衛隊…」

 それを聞きながら、もう俺はあいつに関わらないのに、なんてぼんやりと思った。
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