開いた距離


(side:将揮)







「会長ー、ちょっと休憩しよーよ」

 了の声に顔を上げる。デスクに頬をべったりとくっつけて暑そうにしている了を見て溜息を吐いた。因みに生徒会室にいるのは現在俺と了、そして書記の荒川。書記は何を考えているのかよく分からない奴で、いつも気がついたときにはふらりとどこかへ行っている男だ。俺たちの中で一番長身――というか、学園一背の高い男だ。しかし猫背なので俺とあまり変わらないところに顔がある。
 この荒川はミステリアスで、浩介が荒川に構っても一瞥するだけで何も言わなかった。だから前まで気に食わないと思っていたんだが…。俺たちが仕事をしていなかった時に仕事をしていたのは荒川だったらしい。自分が如何に馬鹿だったかのかを思い知らされた。因みに副会長はまだ浩介に構ってばかりで戻ってはいない。俺も了もつい先日までそこに混ざっていたが、それがなくなったのはあいつ、杷木のお陰だ。
 あの細い体に暴力を振るっていた自分が信じられない。昔に戻って殴りたいわ。
 俺は荒川に視線を移す。本を読んでいた。ああ、あの本は昔読んだことがある。ストーリーの展開が凄かった……いや、仕事しろよ。
 俺は溜息を吐いて眼鏡を外す。これは休憩の合図ともなっているので、了はあからさまに目を輝かせると体を起こした。

「お菓子食べよ、お菓子! 何食べようかなー、何が良い? あっくん」
「……プラティくん」
「え、ぷ、ぷらてぃくん?」
「…小説のキャラクターだろ。荒川は話聞こえてないみたいだから適当に持ってこい」

 少し悲しげに見える。今読んでいるのはルシファーというあのキャラクターが出て来た場面なのだろうか?

「はいはーい。……って、あっくんずっと本読んでたの!? 俺たちが一生懸命書類を処理してたのに!?」

 …確かに仕事をしていないのは駄目だが、それをお前が言ってはいけない。勿論俺も。嗜めるような視線を向けると、了はハッと気付いて気まずそうに視線を泳がせた。荒川は動かない。聞こえてはいるようだが、興味がないみたいだ。

「じゃ、持ってくるー」
「ああ」

 了は明るい笑みを浮かべて給湯室に消えていく。
 コーヒーも一緒に持ってくるだろうから、少し時間があるな。掛け時計を見て書類を数枚持つと、立ち上がる。

「書類を提出してくる」
「ん」

 荒川が小さく頷いた。それを確認した俺は生徒会室を出る。
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