クローゼットから人型永倉新八


 揺れが収まったことに安堵の息を吐けば、次いでガタガタと音がした。今度は何だと肩を揺らして音の根源を探した。しかし、探す暇もなく。

「どああっ!?」
「ぎゃあああああ!?」

 閉まっていたクローゼットが何らかの力によって開き、何かが飛んできた。驚いてそっちを見た瞬間ガチン、と歯に激痛が走る。いってー! 折れてないよね、無事だよね私の歯!

「っ、でえええええ!」

 何が飛んできたんだと涙目に見上げてみると、等身大の人形らしき"物"。良くできている。声まで出せるとは。それにしてもまるで人のよう……。

「って人だああああ!」

 目の前で痛みに悶えてる"男"は口を押さえていた。え、なにこれどういう状況? 私は歯が痛くて、で、このひとも口を押さえてて。……あれえ、何だか嫌な予感がするんですけど。っつーか誰だよこいつ!
 男がこっちを向いた。痛みに悶えていた時の表情は消え、殺気に満ちた目で睨んできた。よく見ると和服で、しかも帯に差しているそれは、間違いなく刀だった。本物ということは今分かったんだけどね。だって現在進行形で煌々とした刀の鋩が向けられているからね。

「っていうか何故私はこんなに落ち着いてるんだ!」
「っ、手前誰だ!? つうか此処はどこだよ!?」
「うわあっ、刀! 取り敢えず刀仕舞って下さい!」

 銃刀違反で警察に捕まりますよ! っつーか呼ぶぞと言うと(いや、これは勿論口に出して言ってないけど)男は頭にクエスチョンマークを沢山出して首を傾げた。「じゅうとう…いはん? けいさつ?」ええー、法律も警察も知らないってどういうことなの? もしかして記憶喪失とか? でも記憶喪失の人が何で私の部屋、しかもクローゼットから出てくる状況になるんだ…。
 男は渋々鞘に刀を納め、じろりと睨んだ。

「えーっと、私は永倉采架と言います。因みにここは私の部屋ですが」
「……異国の奴か?」
「え、いや、日本人ですが。あ、でもクオーターです」
「くおーたー?」

 私をじろじろ見ながらクオーターという言葉に反応する。

「四分の一は異国の血が混ざってるってことです」
「……そうなのか、」
「あ、そういえばアナタの名前は」
「ああ、すまねぇ。俺は永倉新八ってんだ」
「そうなんですか」

 ん? 永倉新八ってどっかで聞いたことあるような。ええと、確か久和が――。

『君と同じ苗字のだね、新選組の永倉新八って人は――』

 そうか、"新選組"の"永倉新八"だ。どういう人物かを久和はペラペラと喋っていたけど興味がなかったから全然聞いていなかった気がする。

「新選組の人と同姓同名なんて珍しいですね。親が新選組とか好きだったんですか?」
「はあ? 新選組の永倉新八は俺だぞ」
「……は、」

 どうしようこの人記憶喪失とかじゃなくて只の頭がイカレてる人!?

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