テレビは離れて見ましょう


「で、もうないの?」

 沖田さんは山ほどあったクッキーの皿を爪でカツンと叩いて言った。

「はあ…多分探したらあると思いますけど…」
「じゃあ持ってきて。あ、変なの持ってきたら分かってるよね?」

 ニヤリと嫌みたらしい笑みを浮かべ、急かすように皿をもう一度鳴らす。
 私は溜息を吐きたくなるのを抑えて立ち上がる。その間もビシビシと視線が刺さり、まだ警戒を解いていないことを再確認する。
 リビングに行くと、原田さんと平助くんがテレビに食いつくように見ていた。そんなに近くで見てたら目が悪くなるよ。ていうか寧ろ見えなくないか?

「うおー! すっげェ!」
「はぁ、本当に凄いな、これ。どういう仕掛けだ?」

 平助くんは子供のように燥ぎ、原田さんは感嘆の声を上げている。
 「そうだろうそうだろう!」その横で何故か誇らしげに笑っている新八さん。いや、あんたも最初こんな反応だったからね。何で上から目線で笑っているんだ。
 私は新八さんたちに近付くと、至近距離で見ている平助くんと原田さんの間を覗く。

「何見てるんですか」
「うおっと! 采架か。いやあ、これ凄いな!」
「あにめ? ってやつを見てるんだが」
「何故よりにもよってアニメ」

 もっと色々あるだろう。ドラマとかドキュメンタリーとか。いや、アニメがいけないってわけじゃないんだけど、ドラマとかの方が人間でてるし分かりやすいんじゃないだろうか。……しかも見てるの某ハムスターアニメの再放送だし。
 呆れた目で新八さんを見遣ると、何を勘違いしたのか親指を立てて、にっと笑う。そのとき歯がキラリと輝いた。

「これ面白いのだ!」

 …口調移ってるし!

「采架も一緒に見るか?」
「あー…いえ、私は沖田さんにお菓子を」
「あ、覚えてたんだ? 遅いから忘れてるのかと思ったよ。キミ見るからに馬鹿そうだし」

 ふふ、という笑い声がして、後ろを振り向くと笑顔の沖田さんがいた。部屋の温度が二、三度下がった気がする。
 っていうか見るからに馬鹿そうな顔立ちをしているのか、私。確かに頭良くないけど、はっきり言われると腹が立つな。でも反応するのも癪だから黙ってよう。
 無表情のまま沖田さんを見つめると、詰まらないと感じたのか肩を竦めて視線を逸らした。

「それで、甘味は?」
「今から探すんで少し待っててください」
「うん、いいよ。物色してるから」

 声が凄く楽しそうだ。…何もやらかしてくれるなよ、と心配になりながら台所へと向かう。一応近くに三人いるけど、絶対に役に立たないな(特に原田さん以外)。

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