伸ばされた腕から伝わる


 テレビを見てみたいという平助くん、原田さんを見送った。何故か誇らしげな新八さんと共に。と、いうことは…だ。この空間に存在しているのは私、永倉采架と――沖田総司、その人だ。酷く気まずい。気まずいっていうかぶっちゃけ私生命の危機じゃないか?

「ねえ」
「…はい」

 口は弧を描いているが、凄い黒いオーラを纏った彼に、私はぞくりとして一歩後退った。その時、ちゃき、と刀の擦れる音がした。動いたら斬るぞ、――ということか。

「僕はまだキミを信じてるわけじゃないから」
「……は、はあ」

 信じてないことなんて今までの言動とその怖い笑みから分かりますけど…。怖い笑みなんて言ったら瞬殺されそうだから絶対言わないでおこう。直立不動の私を一瞥し、刀から手を放す沖田さん。それに安堵の溜息を吐いた。
 それにしても、帰り道は新八さんが知っているのだからここにいたくないならさっさと帰ればいいのに。寧ろそうしてくれると有り難い。だって怖いんだから。女らしくないと皆から言われるけど、これでも女なんだぞ。直ぐ刀で斬り殺そうとする男と二人きりとか怖いに決まってる。
 私は立っているのもなんだしと床に座る。テーブルの上のクッキーを一つ摘み、口に含んだ。甘過ぎるお菓子は嫌いだけど、ここのお菓子は全体的に控えめな甘さだから沢山食べれる。その中でも好きなのがこの黒胡麻入りクッキーだ。カリ、と音を立てながらぼおっと美味に浸っていると、近くから声がした。勿論それは沖田さんだけれど。

「何、それ」
「クッキーです」
「…くっきぃ?」
「甘味です」

 ふうんと興味のなさそうな声を漏らしたが、視線はクッキーに釘付けだ。食べたいのだろうか。

「…食べますか?」

 きっとこういっても毒があるかもしれないとか言われて終わりそうだけど。
 沖田さんに一枚クッキーを摘んで目の前に持って行けば、少し思案して、私の前――テーブルの向かい側に座ると、クッキーを受け取った。
 え、受け取るんだ。これはもしかして久和のよく言っているツンデレのデレ!?

「毒でも入ってたらキミ、殺すから」

 デレじゃないですね、はい。というか沖田さん、それは毒に勝つ発言なの?
 でも、クッキーを受け取って、しかもそれを今食べるつもりならば――少しは警戒を解いたって、ことでいいのかな。

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