刀を人に向けるのは止めましょう


取り敢えず服を買おうとデパートに入り、子供のようにはしゃぐ新八さんを知り合いだと思われたくないなと思いながら店を回る。柄とか気に入ったものがあれば持ってきてくれと言えばマッハで消えていった新八さんをちょっと白い目で見ながら私も物色する。

「采架ちゃん、これはどうだ!?」
「どれですか―――は?」

 持ってきたのはピカソみたいな絵が沢山描いてあるTシャツだった。それだけならないい(いや実際あまりよくはないが)。問題はそのサイズだった。何故子供服から選んできたよお前……。明らかに入らないよそれ。お腹でるよそれ。腕ピチピチで気持ち悪いよそれ!

 「却下」「えっ、な、何でだ!?」「却下」私が首を降り続けると諦めて戻していく新八さん。やっぱり私も一緒に選んだ方がいいのかな……。
 新八さんを捜した私はぎょっとする。

「新八さんそこ女性用!」

 あろうことか新八さんは女性ものの服の中から選んでいた。え、じゃあさっきの服も……?












 何とか普通のTシャツを選んだ私。後ろで何だそのミミズが這ったような字は……とブツブツ言っている新八さんにこれは英語だと口には出さずに試着したものをそのまま勝手に購入。まあ似合うか似合わないかは別にして、兎に角着れるものなら問題なし。何着かあればこと足りるし。でも相当痛い出費だ……仕方ないけどさ。
 動きにくそうな新八さんは不満の目で訴えかけてくる。それを華麗にスルーして店を出る。そして他にも寄って行きたそうな新八さんの期待に満ちた目を華麗にスルーして家へと帰り着いたのだった。












「……え」
「君は誰かな?」
「いや、あの、――え?」

 リビングでテレビを見ている新八さんを放って自室のドアを開けたのはいいが誰もいないはずのそこには見知らぬ男が三人。しかもその内の一人は現在進行形で私の喉元に刀の切っ先を向けている。え、どういうこと? お前らこそ誰だよ。幾ら私でも命を抱えられているというのにそんな恐ろしいこといえない。

「ねえ、誰なの?」

 「永倉采架といいますが…」取り敢えず声を絞り出して答えれば、目の前の茶髪の目が細くなる。

「おい、総司、一回刀下げろよ。あっ、お前さ…新ぱっつぁんの居場所知ってるか?」
「ちょっと平助」
「いや、でも女に刀向けるのは確かに良くねえな」

 茶髪は渋々と刀を下ろし、鞘に収めた。しかし、その目は私からそらすことはなく、口は弧を描いているのに目は睨むように私を射抜いていた。居心地悪…!
 それにしてもしんぱっつぁんとは何だろう。そんな愉快な名前のもの何しらな……あれ、もしかして新八さんのこと? それならリビングで寛いでおりますが。

「永倉新八さんのことでしょうか」

 間違ってたら嫌なので訊いてみると、部屋はしんと静まった。皆何かを探るように私を見ている。こんな状況でリビングでテレビ見て寛いでますなんて言えるのは馬鹿と勇者しかいないだろう。例えば久和とかね。あいつ馬鹿だから。

「そうだ。新八はどこにいる?」

 赤髪の男が尋ねてくる。これはリビングにいるとしか言いようがないんだが、下手なこといったら殺すぞてめぇという風に睨んでくる茶髪が怖くて軽々しく言えない雰囲気なんだけどこれ。私にどうしろっていうの。
 悶々と悩んでいると、後ろで明らかに場違いな声が響いた。

「采架ちゃん、菓子ねえか?」

 明らかに元凶の男が笑顔で姿を現した。

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