未知なる世界*


 「だっ、誰だ!?」周りを見ても誰もいないし、気配がない。相当な手練れではないだろうか。刀もない丸腰な状態でそいつを相手できるなんて無理に等しい。冷や汗が頬を撫でるのを感じながら精神を集中させた。

『おや? おやおやおや、キミは誰だい?』「どこだよ!」

 確かに声は聞こえるのに姿は依然として見えないままだ。しかし相手の様子からすると俺を人質に取ったとか、そういう類ではないらしい。
 そう言えば握っていた手の中のもの。ひんやりとした感触のそれから音が漏れている気がする。俺は恐る恐る耳に当てた。

「新選組八番隊組長の藤堂平助だ」
「……何だって?」

 取り敢えず名乗ってみると間が空いて返ってきた声に肩が思わず震える。小さく聞こえた声が冷気を帯びていた。――しかし次の瞬間には明るい声が鼓膜を震わせる。「いやー、参っちゃうねえ。そうかいそうかい永倉新八の次は藤堂平助かあ!」
 ――は? 俺は呆気にとられて間抜けな声を出してしまった。それを見知らぬそいつが笑い、それが耳を擽った。つーか、こいつ今永倉新八の次は、って言わなかったか? ってことは…ここに新ぱっつぁんがいる!?

「キミが出たってことは采架ちゃんは今いないんだろうね。まぁ直ぐに帰ってくるさ。うははははじゃあね!」

 ブチッと何かが切れる音がして、それからはもう声は聞こえなかった。手の中の変なものを見つめる。これは一体何だろう。うーん、と顎に手を添えて考えていたとき、後ろで大きな音がした。ビクリと肩を跳ねらせて振り返ろうとした。瞬間。
 背中に何かがぶつかった。それに押されて必然的に俺の体は屈む。そして重力に耐えきれなくなった体は倒れ、最後には顎を強打した。がちん、と歯が甲高い音を鳴らして噛み合った。

「――っ、いっでぇ!」
「あれ、平助だ」
「……どこだ、ここは」

 酷く聞き慣れた声に顎を押さえながら勢い良く顔を上げると、そこにはにんまりと笑っている総司と部屋の中を見渡している左之さんがいた。ちょっと左之さん俺のこと無視?
 「お、平助」明らかに今気がつきましたとばかりに声を漏らす左之さんは俺が持っている物に首を傾げる。

「何だ? それ」
「いや、よく分かんねえんだけど、ここからさっき人の声がしたんだよ!」
「そんなわけないでしょ。平助はその小さいのに人が入ってるっていうの?」「んなことないに決まってるけどは、マジで聞こえたんだって!」

 「ふーん」興味を失ったように声を漏らした総司は部屋の中を物色し始めた。どこかも分からない今、手掛かりはこの部屋にしかないが、危なくないだろうか? 一瞬不安が過ぎったが気にせず総司の背中を見つめた。

「何だろう、これ」

 総司が指先で摘んでいるのは何やらジャラジャラと音を立てている輪っか状の物。石みたいなのが沢山ついていた。左之さんもそれの正体が分からないようで、それを見た総司は早々に考えるのを止めたらしく、ぽいと投げるように戻した。おい、もうちょっと丁寧に扱えって!

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