目撃者Tの証言


(side:藤堂)


「はあ?」

 左之さんが整っている眉を片方上げて聞き返してきた。俺はだからあ、と苛立ちながら少し声を荒げる。それを左之さんが呆れた顔で遮った。

「平助、お前まさか酔ってんのか?」
「ちがーう!」

 新ぱっつぁんじゃないんだからこんな朝から酔わねえよ! 思わずそう言うと、そりゃそうだよなと左之さんは苦笑する。ただ、俺の話は信じてなさそうだ。(確かに俺が左之さんの立場だったら信じないけどさ)でも俺は至って本気なんだ。
 結構前に押入を開けたら新ばっつぁんがいたのも驚いたけど、今日はそれ以上の衝撃を目撃してしまった。そう、俺は確かに見たのだ。

「本当に新ぱっつぁんが消えたんだって!」

 左之さんは深い溜息を吐いた。









 最近新ぱっつぁんは付き合いが悪くなった。島原に行こうと誘えば、苦い顔をして悪いと言うし(前なら喜んで行っていたのに)、それどころか屯所内で会う回数も少なくなった。しかも話しかけても手に嵌めた布ではない何か(訊けばりすとばんど、というものらしい)を眺めながら上の空。島原で女を前にするように愛しくそれを眺めている。いや、絶対それより愛しそうに見つめているな。
 始終機嫌が良いので皆も疑問に思っていたけど、女が出来たんだろう。胸中できっと皆そう思っていると思う。まあ気になると言ったら嘘になるというか、ぶっちゃけ物凄く新ぱっつぁんが骨抜きになる程魅力的な女が気になった。そこで今日、新ぱっつぁんの後をつけた。そしたら、どういうことなんだろうか。押入に入った新ぱっつぁんは消えてしまった。ちゃんとこの目で入るところを見たのに。押入なんかで何やってんだよ、と言おうと押入を開いたら誰もいなかったのだ。
 もう一度左之さんに話せば、違うところから返事が返ってきた。


「へえ、何だか面白そうな話してるね」

 愉快そうに目を細めるとそいつは言った。

「総司」
「平助、その話本当なの?」
「え、ああ、本当だけど」
「ふうん」

  明らかに信じてなさそうな顔で俺を見る端正な顔。腰の刀を少し鳴らすと笑みを深めた。「じゃ、その問題の押入に行ってみようよ」

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