押入から永倉新八*


 私はクローゼットを前に口をへの字に曲げた。ボールを転がして右に転がるかと思いきや左に転がって、しかもそのボールが爆発したときのような衝撃だ。我ながら例えが意味分からないな。

「ふむ…」

 説明しよう。新八さんがクローゼットを開けた瞬間、ブラックホールがあって、そこに新八さんが吸い込まれたということだ。嘘です。
 まあともあれ、居候は居候になった当日にいなくなりました。完。

「ってわけにもいかないか。おーい新八さんや、でておいでー」

 ちょっとした遊び心だ。クローゼットに新八さんを押し込み、そして。

「え……っていうか、エッ?」

 クローゼットには新八さんの死体(おっと)……否、ただの物しかなかった。サヨウナラ、新八さん。"新九"としての人生、上手くいくといいですね。完。

「いや、ねえよ」














(side:永倉)


「新ぱっつぁん、何してんだ? こんな所で」
「んあー……っ、へ、平助!?」
「お、おう」

 目を開けると目の前には驚いて目を見開いている平助がいた。周りを見渡すと見慣れた屯所内。(え、つか何で俺は押入の中にいんだよ)ということはあれは夢だったのか? 何だか残念に思っていると、平助が不思議そうに首を傾げる。

「それ何だ?」
「あん?」

 その変な模様の、と俺の手首を指す。つられて俺も視線を下げて目を見開いた。

「夢じゃなかったのか」
「はあ?」
「ああ、いや、これは貰ったんだよ」

 先程采架ちゃんに迷彩柄リストバントという物を貰った。俺は少し嬉しくなって目尻を下げる。ああ、そういやあ礼を言ってねえよなあと俺は申し訳なく思った。平助が横で呟く。

「いや、つか早く押入から出ろよ……」

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