ギブ(2):テイク(8)


「いや、まあ私もそれはどうかと思ったけど……」

 流石に一つ屋根の下で暮らすなんて……ねぇ? 更に顔を赤らめて何度も首を縦に振る新八さんに私は手を差しのばした。

「……んん?」

 新八さんは不思議そうに私の顔と手を交互に見る。まあ、この状況で手を差し出されたら不思議に思うよな。

「ここで新八さんを外に追い出したら間違いなく野垂れ死ぬか警察に捕まる。それは別に他人事って言えばそうだけど、後味が悪いからね。だからここで暮らして大丈夫だよ。まっ、何か不審な動きをしたら即刻追い出すけど」
「……いいのか?」
「色々力仕事とか手伝って貰えるしね。ギブアンドテイクってやつだよ」
「ぎぶあんど…何だって?」
「ああ、そっか。英語とか駄目なんだっけね。ギブアンドテイクっていうのは…えーと、自分が相手にとっての利益を与える代わりに、自分も相手から利益を貰えるってこと。助け合いって感じかな」
「へえ、」

 そんな便利な言葉があるんだな、と感嘆し、そして眉をハの字にして笑った。

「すまねえな、助かる」
「いいえ。ところでそろそろ手の遣り場に困るんだけど」
「…手?」

 そう言えば久和が握手はイスラムの習慣だと言っていた覚えがある。新八さんがいたのはまだ開国したかしてないくらいなのかな? 私は分からないけど、開国したってイスラムの人とは交流がなかったろうし、握手なんて習慣入ってきていないのだろう。それならば仕方ない。私はテーブルの上に置かれた新八さんの手を握った。

「っ、な!?」
「誰かと会ったとき、又は別れるとき。こうやって手を握ることを握手っていうんだよ。この握手には色んな意味が有って、元々異国の習慣だったこの握手は出会いの場や別れの場に使われてたわけじゃなくて、利き手を相手に任せることで自分には敵意も武器もないということを表していたんだって。今は武器とかはないからそんな意味はないけれど。あ、例えば稽古とかの試合で握手することもあるね」
「なるほどなあ」

 じゃあ、改めて宜しくお願いします。と言うと、体を乗り出して手を新八さんの肩に回した。顔を近付けると――ちゅ、とリップ音を鳴らした。

「なああああああっ!?」

 してやったり、と茹で蛸のように顔を赤くする新八さんを前に私は舌をちろり、と出した。

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