僕の心臓は弱い。心臓だけじゃなくて、僕自身も弱くて脆い臆病者だ。
そんな僕でも人を愛することができる。彼と一緒にいるだけで幸せだと感じる反面、この幸せを掴んだままなのが実は、ほんの少しだけ怖い。僕は掴んでいるものを、いつか離してしまうかもしれない。雨宮太陽はこの上なく弱いからね。喪失に脅える僕に、きっと神様も呆れてる。


「あいしてる」
「サッカー?」

唐突に言った上に主語がなかったのは僕が悪かった。けど何でそんなすぐにサッカーに繋げちゃうんだろうという思いで、ベッドの脇に座る彼を見やる。何でって、愚問だったか。僕が彼を愛するように彼もサッカーを愛しているんだ。
「違うよ天馬。そりゃサッカーも大好きだけどさ」
「じゃあなに?」
「天馬」
「うん」
「……いや呼んだんじゃなくて!もー危うく流すとこだった」
「ええ?結局何なのさ」
「僕が愛しているのは天馬ってことだよ」

ちゃんと伝わるように言えば、天馬は僅かに下を向いて照れたように笑った。なんだそのことか、なんて小さく呟くのを見て、言った本人もかなり照れてしまう。

「ねえ天馬」
「なに太陽」
「キスしたい」
「ボールに?」
「…分かってるくせに」
照れ隠しなのか知らないけど、こんな時におどけてみせる天馬にむっとする。笑いながらごめんごめんと謝る彼に大きく溜め息をついた。流石にボールにまで口付けしたいとは思わないよ。

「やっぱり天馬とキスしない」
「えー本当かなあ」
「うそ」

ぐい、と天馬のまだまだ細い手首を掴み引き寄せると彼の瞳には僕だけが映っていた。それを見るとなんだか、えっと優越感っていうの?天馬は僕しか見てないんだーみたいな錯覚。まあこんなに近いんだから当たり前だけど。そんな僅かな隙間を詰めて唇同士をくっつける。ちゅ、と鳴った軽いリップ音に、思わずどきりとした。腕を離すと天馬が、やられたとでも言いたそうに頬をほんのり朱に染めていて、僕が可愛いなあと呟くとそれを拗ねたように脹らませた。
「不意打ちってずるい」
「ふふ、油断大敵」

そう言うと天馬は悔しそうに小さく「今度は俺が…」なんて物騒なことをこぼしていた。え、ちょっと待ってよ。普通にキスするだけでも心臓が止まりそうなのに、不意打ちなんてされたら確実に止まりそうなんだけど。
「やめてよ天馬。そんなことされたら僕死んじゃうよ」
「冗談でもそんなこと言っちゃ駄目。けど、どうして?」
「どきどきし過ぎて破裂するから」
ほら、と彼の手を引いて己の心臓の上にあてる。どくんどくんと僕の中から伝わっていく生の証に彼はびっくりしたみたいで、その青の瞳を見開いていた。
「わっほんとだ。太陽すごくどきどきしてる」
「えー、天馬はどきどきしてくれないの?」
「するけど太陽の方がしてるよ」
なにそれずるい、って笑いながら言うと天馬は優しく微笑み返してくれた。僕は彼の笑顔は人を解放する力があると日頃思っている。あっ、そうだ。この優しさに包まれた幸せの中に、少しだけ僕の気持ちを混ぜてみたらどうなるんだろう。

「天馬とのキスで死ねるなら本望なんだけどなあ」
「太陽!」

駄目に決まってるだろって怒ってくれた天馬に、そうだねと嘘をついた。だって僕は本当にそう思ってるんだよ。こんな自由になれない身体なんて、君に期待だけをさせてばかりの僕なんて、この幸せはどうせもうすぐ壊れてしまうんだからと、こんなことばかり考えている僕なんて早く死んでしまえばいい。雨宮太陽の臆病な本音。ほんとの気持ち。受け取らなくていいし、知らなくてもいいよ。僕は君とのキスにどきどきしながら、ああこうして命が消えていけばどれだけ良いだろうと想い抱くだけだから。それが叶うのかは分からないけれど。
神様、僕は天馬とキスする度にあんなにどきどきしてるんです。なのでどうか、ほんの少しだけでいいので己の寿命を縮めてください。そしてできることなら、その命を彼にあげてください。
彼を抱きしめると、胸元で普段よりも僅かに速く脈打つ心臓は、自分のものなのかはたまた彼のものなのかよく判らない。キスした分だけ寿命が縮まればいいのに。そう耳元で言ったら天馬は顔を上げ困った様に笑って僕にキスをした。嗚呼、僕はまたひとつ終わりに近づいたんだろう。

0309 thx/ギルティ

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