「そろそろ結婚していいよね」

まだ温かさの残るコーヒーカップを机の上にかたりと置いてシュウは言った。いつも通りの日常だった。俺とシュウは、まあ世に言う恋人同士っていうやつで、今だってお互いがしたいと思った時にキスをしていたし、もう少し遡ればそれ以上のこともしていた。うんいつも通りだった。

「誰と誰が結婚するの?」
「またまた惚けちゃって。僕と天馬に決まってるでしょ」

さも当然だと言うシュウに耳を疑う。ええ、もしかしてまだこっちの世界に慣れてないから知らないのかな。こんなの常識とかそれ以前の問題だけど。

「あのねシュウ。男同士じゃ結婚できないんだよ」
「知ってるけど」

知ってるって?じゃあなんで、知ってるのに何でそんな哀しいことわざわざ言うの。ばかシュウ。

「じゃあ何で言ったのさ。結婚なんてできないんだよ俺たち男同士だから」
「天馬」

僕が言ってる結婚っていうのはね、そういう形のあるものじゃなくって、此れからもずっと一緒に傍にいようってことだよ。それにびっくりしていると腕を掴まれた。さっきまで自分のそれと合わせられていた唇が、今は薬指に触れていて顔が熱くなる(え、なに指輪の代わりってこと、)。その後に少し恥ずかしそうに笑うシュウを見て何だか無性に泣きたくなった。

「なん、でそんなこと言うの……」
「嬉しくないの?」

そんなわけないって言いたかったけど、既にぼろぼろと泣いていた俺は喉がぎゅうと苦しくなって上手く言葉に出来なかった。ばかばか何言ってるの。もう幸せすぎてよく分かんないよ。

「あはは、天馬泣きすぎ」
「うるさ、い…シュウだって泣いてるくせに」

君だって今が幸せだと思うから涙を溜めてるんでしょう。俺ね、あの時は絶対にシュウとはもう逢えないと思ってたんだよ。けれど今こうしてシュウとサッカーできて、いつでも傍にいて、此れからもずっと?嬉しいに決まってるじゃんか訊かないでよ。

「俺シュウのこと、あい、あいしてるから…」
「僕も天馬のこと愛してるよ。だから結婚しよう」
「…返事は分かってるし言わなくていいよね」
「だめ」

天馬の口から聞きたいとか何とか言いながらぐいと顔を近づけられる。これは言わなきゃ放してくれなさそうだ。文字通り目と鼻の先で、仕方なく「よろしくお願いします」と小さく呟いた。シュウは今日いちばんの笑顔で「こちらこそ」と言って俺にキスをした。ああどうしよう俺中学一年生にして結婚しちゃったよ。シュウの触れた薬指がじんじんと熱かった。




120207/匿名さんへ