「しゅう、ひゃめてよ」

さっきから何でか俺の鼻を摘まんだまま離さないシュウに、変な声になりながらも必死に訴える。
けどシュウは俺を見たまま一向に動こうとしない。その間にもひりひりと鼻が悲鳴をあげた。

「いたいよ、はなひて」
「んーどうしよっかなー」

もう一体何なのだ。自分が何か怒らせるようなことをしたかと今日の行いを思い出し、思考を巡らすけれどそんなの見当たらない。じわりと涙が浮かんでくる。

「おねがい、しゅうー」

「はいはいわかったよ」

何度目かの悲願でやっと叶ったのはいいけど、仕方ないなとでも言うように指を離されたのが多少気になる。

「ふあ、もー何するのさシュウ!いたいなあ」

「あは。天馬の鼻真っ赤だね」

そう言って笑われても、シュウのせいだよとは言い返せなかった。だってどうしてか俺に背中を向けるんだもん。

「シュウ。何かあったの?」

その何処か寂しげな背に言葉を投げると二人の間に沈黙が流れた。返事は来ないかなと思ったけど、ちゃんと返ってきた。

「……あーあ。僕、天馬と一緒にいると全部外に出ちゃうなあ」

そう言ってぐすっと小さく鼻を啜る音が聞こえた。
シュウはくるりと俺に向かい直すと(あ、ちょっと目が赤い)、手のひらで俺の頬をそっと挟んだ。何だか俺今日は挟まれてばっかだなあ。

けど今はさっきみたいに鼻じゃなくて頬だし。もしかして、もしかするとなんて淡い期待で目を閉じたけど、瞬間落ちてきた柔らかい唇は俺のそれにじゃなくて、さっきシュウが摘まんでいた場所だった。

え、鼻なの。ちょっと残念だなという思いが過った瞬間、そこに鈍い痛みが走った。摘ままれた上に思いっきり咬まれて、俺の鼻は今どうなってるんだろう。

「いっ…!シュ、ウ!なななに、かんでんの!」

「あは、天馬の鼻が可愛くて思わずね。というか何、期待しちゃった?」

何言ってるのって怒ろうとしたけど、その時シュウの微笑みがすごく綺麗なことに気付いて、目の端に溜まった涙もきらきらしてて、言葉も飲み込んで見惚れてしまった。
もう赤い鼻なんて気にならないくらい俺の顔は真っ赤になってるんだろうな。と思ったけど鼻はひりひり痛いままだった。
シュウのせいだからね。そう言って睨んでも君は微笑んだままで、うん元気出たみたいで良かったよ。







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