※映画バレ有。色々捏造してます

お前は、兄である僕に純粋で無拓なお願いを幾つもしたね。
そんな中で一番困ったのは、暗闇を照らす星々を取って欲しいと言われたことだった。ひとつだけでいい。そう言われても無理なものは無理だよ、と苦笑する。
あの時お前は涙を浮かべていたけど、憶えているかな。
*
「お腹空いたな。」

冬だということもあってか既に陽が傾き始めている。緋色の道を二人で歩きながら、天馬は白い息を吐いて唐突に言った。

「そんな急に言われても何も持ってないよ。」
「だよね…うう、家まで我慢かあ」

残念そうに項垂れる天馬を見て思い出した物を制服の上から触れる。
今日は偶然親友が、似合わない物をくれたのだ。まあ彼も人から貰ったのだと言っていたけど。彼がこれを買うところなんて想像しただけで笑える。

「…あ。あったあった」
「え!なに、何かくれるの!?」
「はい飴。」

そう言って鮮やかな赤色を差し出すと天馬はまた少し残念そうにした。

「こら天馬、飴に失礼でしょ。それとも要らないの?」
「…もらう。」
僕の手から甘い香りが離れていく。きらきらと陽に照された、星の様なそれが天馬の口に入る。

「んーお腹はいっぱいにならないけど、おいしい」
「そ、よかった。」
「シュウは要らないの?」
「飴ってすぐ噛んじゃうんだよね僕。だから天馬にあげる」
「甘くておいしいのにー」

そう言って飴を頬で転がす姿が愛らしい。
ああそうだ。甘いだけなら僕はあれでいいや。

「天馬」
「なに?飴ならあげないよ、ん、」

急にキスをした僕に驚いた瞳とかち合う。天馬と僕の間の僅かな隙間から射す夕陽が映っていた。
あ、きらきらだ。天馬の眼も星だったんだ。こんな近くにも星って在るんだなぁと感心する。
それにしても何て人工的な苺味なんだ。たまらなくなって唇を離した。

「…まずい。天馬よくこんなの舐めてられるね。」
「!な、な、」
「やっぱり食べなくて正解…おーい天馬くん大丈夫?」

ひらひらと手を振ると赤い顔が睨んでくる。ガリ、と飴が砕かれる音がした。

「ちょっとシュウ!ここ外だよ!?」
「知ってるよその位。で、人が居ない時にしたでしょ」
「そういう問題じゃなくて!」

喚く天馬を適当に宥めて、いつの間にか薄暗くなった空に顔を向ける。小さく耀いたそれに呟いた。
なあ、今なら僕、お前に星を渡せそうな気がするよ。

想いは静かに星たちへ消えた。


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