今日の天馬は何だか元気がない。いつもの笑顔が何処と無くぎこちないのだ。

「天馬体調悪い?何か悩みがあるの?」
心配して手を伸ばす。しかしそれは本人の手によって払われた。乾いた音が空気を震わす。目の前で起きたことが信じられなかった。拒絶なんて一度もされたこと無かったのに。
「天馬…?」
天馬は呆然とする僕に話し出す。
「あのねシュウ…俺、シュウのこと嫌いになっちゃった。」
途端がしゃんと何かが壊れる音がした。天馬は僕から視線を逸らす。酷く冷たい空気が肌に突き刺さって痛い。何で?急にどうして天馬?今まで好きって言ってくれてたのに。

「だから別れようシュウ。さよなら」
「、てん、」
そう言い放し天馬は一度も僕を見ないまま、くるりと背を向け去ろうとする。待ってよ。そう言って引き留めたいのに何故か声が出ない。待って。ねえ置いてかないでよ、!
「天馬!!」
「うわっ!」

やっと声が出たと思ったら、ゴツンと何かにぶつかり短い悲鳴が聞こえた。頭に鈍痛が走り思わず手で押さえる。あれ、聞いたことのある声だ。

「…てんま?」
「いたあ…シュウ!どうしたの?」

霞む視界で見えたのは、先程いきなりの別れを告げてきた僕の愛しい人。
天馬は目の端に涙を溜めて痛そうに顎を擦っている。天馬が自分の目の前にいる。天馬が、目の前に。その事実から一つの結論へ辿り着く。もしかしてさっきのは、

「…ゆめ?」
からからに渇いた声で呟くと全てを思い出した。ああそうだ。最近サッカーの練習ばかりで疲れきっていた僕は、天馬の膝を借りて眠ってたんだった。髪を撫でる天馬の指がとても心地よかったのを思い出す。
さっきのが夢だと分かった途端に何とも言えない気持ちが込み上げてきて、未だに涙目な天馬に勢いよく抱きついた。そっか夢だったんだ。よかった。本当によかった。最初よりもぎゅうと力を込める。

「うわ!ちょ、シュウ!…シュウ?」
泣いてるの?天馬は急に抱きついた僕に慌てながらも柔らかな声色で問うた。ああそうだよ泣いてるよ。だからそんなに優しく触れないで。馬鹿だから僕は。

「天馬…天馬。」
「うん、うん。俺はここに居るよ。」

天馬は理由も訊かずただ僕の頭を撫でる。それが酷く優しくて次々と流れてくる涙は一向に止まる気配がない。溢れる涙で天馬の肩を濡らし、音にはせず形だけでありがとうと呟いた。僕思ってる以上に君に依存してるみたい。君と離れるなんて、あり得ないから。


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