昼を過ぎた位から急に痛みだした頭を己の手で押さえる。全身が熱くて背中を流れる汗が気持ち悪い。心なしか感覚もふわふわしてきた。
風邪なんて久しぶりだ。確かに今日は朝起きた時から何時もとは違うだるさを感じてはいたが、まさか自分が風邪を引いていたとは。
部活は神童か監督に言って休ませてもらおうか。というか何でこんな大切な時に俺は風邪なんか引いてるんだ情けない。

日頃の自己管理を見直そうと心に決め、とりあえず保健室へ行こうと重い足を運ぶ。
何でもいいから早く横になりたかった。

すると向かう途中で偶然、これから部活に行くのだろう。
見馴れた後ろ姿を見付けた。
その背中にほぼ反射的に声をかける。ああ頭がくらくらする。

「てんま、」
「あ、霧野先輩こんにち…って先輩大丈夫ですか!?顔真っ赤でフラフラじゃないですか!」

俺を見るなり焦り始める天馬をぼーっと眺めながら、ゆっくりと口を動かす。

「ちょっと、風邪っぽくてな…」
「ちょっとどころじゃないですよ!きょ、今日は部活せずに早く帰って下さい!」

何だろう、まさにそうしようかと(本当はこんなでも練習したいけど)考えていたことを、改めて天馬に言われると凄く寂しい。
それに加え「早くキャプテン呼んでこなきゃ、キャプテンに、」とか言うもんだから余計に寂しさが増す。また一筋、汗が伝った。

何だかいつもと違うように見える濁った視界の中で、半ば無意識に天馬の手に目がいく。
廊下に二人きりという状況と熱に浮かされた俺は、未だに狼狽えている天馬の手を握り己の頬へと導いた。
この時を後から思い返すと、俺はなんて恥ずかしいことをしたんだと凄く後悔した。穴があったら入りたい位だ。

天馬の手を頬に当てるとじわりと熱が伝わってくる。天馬の手は温かくて、俺の有り余る熱を奪ってはくれない。
ああどうしようか。いや今は、

「離れたくない…天馬…」
「わっ…霧野先輩?」

熱で脳がどろどろに熔けているようだ。相手に触れているところがじんじんと痛む。

そのまま呆けている天馬へ倒れ込むようにキスをした。
驚いた顔の天馬を瞳に映してずるずるとその場に崩れ落ちる。己の名を呼ぶ天馬の声が微かに聞こえた気がした。

後日天馬が風邪を引いた原因は確実に俺だろう。もちろん見舞いに行ったよ。
あと風邪を引いてる時とかって何だか寂しく感じるよな。
まあ原因は俺だから怒られたのはしょうがない。


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