あの子と話すうちに、自分の中の友情への独占欲? みたいなものを、何となく自覚しだした。 だからといって丸井くんとの関係が変わることは無くて、うんうん考えても日々は過ぎていき、立海見学の曜日はやってくる。 約束をしていないといっても前日になれば『明日も来るだろ?』的な確認メールが来るし、もちろんと返すオレのメールもお馴染みのもの。 ある日、あの子から聞いた『特大カツサンドデラックス』がちょっと気になって丸井くんにメールしてみたら、立海の購買パン売り場で断トツ人気の商品。 チャイムと同時ダッシュしないとまずゲットできない、半ば幻のパンだと詳細を教えてくれた。 それをゲットできたということは、あの子はきっと授業終わりにダッシュで購買に行ったんだろうし、僅かな差で敗れた丸井くんもそうなんだろう。 氷帝の購買だと、惣菜パンはもちろん色々あるけど、天然酵母のオーガニックパンで手作りされたパストラミビーフサンドイッチやグリルドチキンサンド。どちらかというと、カフェで出てきそうなサンドイッチが人気だから、商店街のパン屋さんにあるような、いわゆる『カツサンド』は置いていない。 パン一斤くらいのボリュームらしくて、女の子でソレ食べてる人いるのか聞いてみたら、めったにいないって。 まぁ、女の子がゲットする前にパワフルな立海男子学生で完売してしまうからなのだろうけど。 となると、それをゲットしたあの子は凄いんだろうなぁ。 普段あんまり学校生活の話をしないせいか、立海名物カツサンドのネタ元を聞かれたけど、そうしたらあの子の話になるだろうから適当にふせて。 (だってコクハクの話になっちゃうし、あの子も丸井くんにバレたくないって言ってたしさ) その次の週にあったあの子は、昼休みの購買で今度は丸井くんに『特大カツサンドデラックス』のラスト2個を持っていかれたと嘆いてた。 二つあるのに、一つ譲ってくれるなんてことはなくて、二つとも食べる気かよこの大食いジャイ●ンがー!!って。 そのかわりブリックパックのリンゴジュースくれたから、それで許したと笑ってて、その笑顔を見てたら丸井くんへの親しさが滲み出ていた。 やっぱり丸井くんはあの子が好きなのかな? ソレが恋愛か後輩への親しさなのかわかんないけど、それでもシーンだけ思い描けば付き合っている彼氏彼女の昼休み、に見えるよね。 あの子は心底ヘンな顔して『頼むから止めてください。ジャイア●が彼氏なんて嫌です。芥川さんがいいです』って、サラっと言われたから、一応ありがとうと返したけど、軽口なのか本気なのかがわからなかった。 (だって一応はごめんなさいしてるわけだし) その後、彼女と入れ替わりで丸井くんがやってきて、今日はどこ行こうか切り出したらコンビニで飲み物買って、昔シュークリームを貰った懐かしの公園に行った。 高台の公園ベンチから広がる街の景色、その向こうには海が見えて、部活終わりはちょうど沈む夕日が映えてすごく綺麗なんだよね。 いっつも部活後は『はらへった〜』ってずっと言っているので、ハンバーガーやカレー、牛丼、うどん、とささっと食べれるお店に入って喋るのが定番なんだけど、何故かその時は公園に誘われた。 オレは夕飯まで我慢できるし、丸井くんほど『はらへった〜』じゃないから平気だけど、丸井くん大丈夫かな? お菓子か何か、カバンに入ってないかなとリュックをあさろうとしたら、丸井くんがごそごそと自分のカバンから出したものが、話題のモノで目が点になった。 『ほら、コレが特大カツサンドデラックス』 『え…』 『ジロくん、食いたがってただろい。今日の昼、争奪戦に勝ち抜いてゲットしたんだぞ』 『うわぁ〜、まじまじデッカイね』 『デカさだけじゃなくて、味も美味いんだ。購買のパンの中では断トツだな』 『でも、何で……丸井くん、お昼に食べなかったの?』 『うん?食った食った。今日2つ買えたから。コレはジロくんと部活後食おうと思ってさ』 そう笑って、キレイにはんぶんこして、片方をくれた。 ―あのジャイ●ンが、人に食べ物わけるなんてめったに無い。唯一の例外は弟くんたちだけ。 耳元であの子の声が聞こえた気がした。 『人にあげることは滅多に無い』なんて言うけどイチゴオレやリンゴジュースを貰ったりしてるんなら……でも、これはあの子に言わせるとドリンクやちょっとしたお菓子ならともかく、丸井くんが特別好きなものは違うんだとか。 いくら親しい友達だろうと、丸井くんが大好きなケーキや特別気にいってるお菓子、食べ物はフライドポテト一本すら拒否されるみたいで、なっかなか『一口ください』をOKしないって。 特大カツサンドデラックス以外にも、魚沼コシヒカリばくだんおにぎり、立海メロンパンスペシャル。 学食なら先着20名限定日替わり定食、立海丼特大盛、1つ30円の黄金コロッケ。 高校の購買・学食のメニューで丸井くんお気に入りのものはいくつかあるみたいで、他のメニューならともかく特別好きなものはくれないってあの子から聞いたんだけど……そうなの? 差し出された特大カツサンドデラックスは、間違いなく丸井くんが特別気にいってる立海の購買・パン売り場の断トツ人気商品。 パン一斤近いからかなりの量で、それを二つも食う人は中々いなんだろうけど、丸井くんともなれば話は別だ。 きっとオレがコンビニサイズのメロンパンと焼きそばパン食べるくらいの感覚で、特大カツサンドデラックス2つ食べちゃうよね。 あの子から聞く立海での丸井くんの行動を、普段オレといる時の丸井くんと照らし合わせてみると、やっぱりてんで合わない。 お茶してる時に丸井くんの頼むケーキをついついじっと見ると、『味見すっか?』とフォーク貸してくれる。 ファミレスのストロベリーフェア時に『とちおとめスペシャルパフェ』がいいんだけど『ふわふわワッフル苺ショコラがけ』も捨てがたいと延々悩んでいたら、当初は『チョコサンデー珈琲ゼリーセット』を頼もうとしていた丸井くんが、チョコをやめてワッフル頼んでくれた。 一口ちょーだいとオレから言うときもあるんだけど、たとえ言わなくても察して、必ず聞いてくれる。 そう。 丸井くんは優しいんだ。 ―唯一の例外は、丸井先輩の弟くんたちだけです。ジャイ●ンもジャ●子には優しいでしょ?それと一緒です。 丸井くんは、ジャッカル、あの子、切原や仲のいい友達相手でも、大好きなケーキやお菓子をあげたくない。でも、家族は別で、可愛がっているチビちゃんたちにはすんごく面倒見のいい兄ちゃんで、お菓子でもケーキでも何でもあげちゃう。 オレへの接し方や扱いは、ジャッカルたちというよりも、どちらかといえばチビちゃんたち寄り? 同い年で、誕生日も3週間くらいしか違わないし、背丈もたいして変わんない(よね?そりゃちょっと丸井くんの方が身長高くて重いけど)。 オレへの優しさは、チビちゃんたちへ向けるものと似たようなものなのかな。 丸井くんにとってのオレという『友達』は、ジャッカルやあの子みたいに丸井くんが『食べ物あげない』友達とは違うの?? オレって丸井くんにとって、チビちゃんたちと一緒? いや、まさかそんなことは無いでしょ。家族じゃなくて、友達だしさ。 う〜ん、ますますわかんなくなってくる。 特大カツサンドデラックスはすんごく美味しくて、チャイムと同時にダッシュしないと売り切れるのも納得な満足感。 食べ盛りの高校生には人気間違いなしの一品で、毎回壮絶な争奪戦が繰り広げられるのもわかる。 宍戸なんかはサンドイッチ系が好きで、一番はチーズサンドだけどカツサンドやコロッケサンド、タマゴサンド、ツナサンドといった惣菜パンのサンドイッチには目が無いから、きっと立海の特大カツサンドデラックスを見たら食べたがるんだろうな。 丸井くんは、オレのことを小さい弟たちと同じように、面倒みなきゃいけないヤツだと思ってるのかな。 それを言ったら、氷帝の皆……特に跡部なんて、それが当然だとばかりに口も手も出してくるし、あれこれ世話焼いて助けてくれる。 オレも跡部に対しては甘えることに躊躇ないし、やりたいことは素直に言って、嫌なことは嫌だとキッパリ示す。 たとえ『嫌だ』と拒否して跡部が米神ひくつかせても、何があっても仲直りできる自信があるし、めったなことで跡部は怒らない。 絶対的な信頼感がそこにはあって、跡部に素直に気持ちを言うことや甘えることに、気恥ずかしや照れくささは無い。 丸井くんへの信頼感が薄いとか、素直になれないとか。 そういうことじゃないんだけど、跡部や氷帝の皆へのように素直に何でも言いたいことぽんぽん言えるのとはまた違って、少しの遠慮を覚えるのは事実。 プレーも人柄も尊敬してるし大好きで、一緒にいると楽しいし、不思議とちっとも眠くならない。 ずーっと『楽しい』『嬉しい』が続くから、最後に駅でバイバイする時は寂しくなるし、早く来週にならないか願いながら帰りの電車に揺られている。 小さいころから思ったことを口に出し、感情を表に出すのに躊躇ない方で、人はそれを『素直』とか、時には『はっきり言うんじゃない』と言われたりもした。 さすがにTPOを考えて行動してるつもりだけど、それでも友達や周りの人へ『遠慮』することは無くて、眠くなればどこでも寝るし、食べたいときは甘えておねだりもする。 けれど、何故か丸井くんの前だと、思っていることを言わない時がある。 たいがいは同じように自分の気持を正直に出すので、丸井くんにも『素直でよろしい』と言われるんだけど、実は跡部や忍足たちにはポンポン言えることが、丸井くんだと気軽に出ないこともある。 氷帝外だからなんてことはなくて、ジャッカルや仁王には言える軽口が丸井くんだとどこか躊躇われたり。 そんなことを気にするタイプじゃないって自分自身思っていたんだけど、どうやらオレは、自分の叩く軽口がもし『丸井くんの気に障るかもしれない』なんて想像したら何も言えなくなってしまうくらい、丸井くんに対しては変な壁?を感じているのかもしれない。 壁、というと語弊があるのかな。 あの子も切原も、言いたいことや文句をすき放題ぶつけて丸井くんも言い返し、それが『遠慮いらずの仲』というのなら、そうは出来ないオレは同じように『気の置けない仲』にはなれない。 そんな風に思えば思うほど、何だか変な気持ちになる。 一方で、あの子が珍しがる『ジャイ●ンじゃない丸井くん』の面ばかり見ているオレは、丸井くんの優しさの真意を測りかねて、思考がぐるぐるまわってよくわかんなくなってきている。 ワガママで強引、自分中心で好き放題らしい、ジャッカルやあの子の前の丸井くん。 ひたすら面倒見がよく、色んなことを気にかけてくれて優しい、オレの前での丸井くん。 どっちが丸井くんの本質?……って、両方なのはわかってるんだけど、あの子の話を総評して箇条書きにしてみると、字面だけならやっぱり、ジャッカルの前の丸井くんのほうが、リアルで飾らない高校二年の丸井くんな気がしてならない。 どうして、オレの知ってる丸井くんは、あの子の言う立海高校生の丸井くんじゃないの? カツサンドを半分もらって、あの頃のような夕日を眺めながらベンチで横並びに腰掛け、何気ない会話をかわしていると、どんどんと色々な丸井くんが浮かんできては感情が入り乱れて、まとまらなくなる。 『どうした?あんま食えねぇ?』 『ううん!美味しーよ。食べる食べる』 ほら、ちょっと違うことを考えて遠く眺めてると、すぐに気付いて声かけてくれる。 けれど、これが単に何も考えてなくてただボーっとしている時は、特に気にすることなく放っといてくれる。 …もう、自分じゃよくわかんない。 直接聞けば、丸井くんは答えてくれるかな? この、ぐるぐるした感情の正体、気になる『丸井くん』という人の、異なる面について。 それとももっともっと仲良くなったら、ジャッカルやあの子や切原みたいに、オレにも『我侭で強引、自分一番なジャイ●ン』になってくれる? なってくれる、というのも変な言い方かもしんないけど。 ジャッカルみたいに振り回されたいわけじゃないんだけど、それくらい素の丸井くんを見せて欲しい。 『らしくなく考えてんじゃねぇよ。お前は素直なのが取りえなんだから、遠慮なんて似合わねぇだろ。言いたいことは言え』 中学の頃、跡部に言われたことば。 何が切欠だったのか全然覚えてないんだけどこのフレーズだけは耳に残っていて、それ以来、特に跡部に対しては少しの遠慮や躊躇すら見せることが無くなった。 とっくにパンを食べ終えた丸井くんが、チョコレートのお菓子にうつってボリボリやりながらコンビニの新作プリンの話をしだす。 オレがカツサンドを食べ終えるのを待っていてくれて、たまに詰まりそうになると自分のペットボトルの蓋をあけて、コレで流せと渡してくれる。 最後の一口を食べきって、丸井くんのスポーツドリンクで流し込んで終了。 『ありがとう』 『どういたしまして。美味かっただろい』 半分くらい残ってるペットボトルを丸井くんに返すと、ニッと笑顔で受け取ってそのまま飲み干した。 意を決して、オレにはもうわからない、ぐるぐるしたものを聞いてみようと隣の丸井くんに向き直る。 「ジロくん、どうした?」 「あのね」 「今日、大人しい気がすんだけど、何かあったか?」 「オレ、聞きたいこと、あって」 「俺に?」 頷くと、背筋をぴんと伸ばし同じように体ごとこっちに向けて、『何でも聞け!』と真っ直ぐ見つめてくる。 「まるいくん、どうしていつも優しいの?」 「は?」 途端に、言われたことの意味がワカラナイとばかりに、少し眉をよせてこっちを見ていた視線を外した。 そんな丸井くんの一挙一動と、返してくるであろう台詞を聞き逃さないように静かに見守る。 丘の上の公園の、ベンチ前に広がる景色の一番先は、日が沈みそうな水平線の彼方、遠くに見える海。 しばらく考えていた丸井くんは、くるっとこちらへ視線を戻して、勝気な強い目のいつもの丸井くんで『俺は常に優しいぞ』と笑った。 ここで、そうだよねと返せばいつもの感じに戻って終わるだろうけど、来週あの子に会って色んな話聞いたら、きっとまたぐるぐるしちゃうんだろう。 もっともっと丸井くんに近づきたい、ジャッカルたちみたいに仲良しの関係になりたいって思うから、丸井くんが本心でどう思っているのかやっぱり知りたいんだ。 「学校で一番人気のカツサンド、ゲットしてくれたし―」 チャイム同時ダッシュかけても入手できるかわからない大人気の購買メニューを、ほんの少しの興味を見せた友達のために走ってくれた。 もちろん自分の分を買ったついでかもしれないけど、それでも可愛がっている後輩の女の子に譲らず、途中で食べちゃうこともなくここまで持ってきてくれたこと。 切原の『ちょっとくださいよ』には断じて応じないのに、オレとお茶している時は何も言わなくても『ちょっと食うか?』と聞いてくれること。 まるで弟のチビちゃんたちに接しているように、ジャッカルが『まぁ、お前相手だしな』と納得するくらい、小まめに気にかけて世話やいて、面倒見がよく優しいところ。 あの子を含めた丸井くんの周りは、こういう風に丸井くんを言葉で表す。 『明るくて元気、何だかんだ年下に優しいし基本的に面倒見はいい。ただ、短気で食に関しては特に我侭で譲らない』 前半は納得で、オレもそう思うけど、後半はよくわかんなくて。 丸井くんが不機嫌だったり、怒ったり、そんなところって見たことないし、お菓子もご飯もいーっつもこっち優先してくれて、食べきれないとシェアしてくれる。 あの子のことは伏せつつ、情報源は色々な所からですと『丸井君像』を並べて、それに当てはまらないオレとの友達関係って一体何だろうと丸井くんへ問いかけた。 丸井くんにとって、オレってどういう友達なの? 「誰から聞いたんだ、それ。赤也か?」 「丸井くんジャイ●ン説?…まぁ、あちこちで」 「ったく、俺は優しい先輩だっつーのに」 「うん。丸井くんはいつも、すっげぇ強くてかっこよくて、優しいよ」 「…お、おう」 「オレ、丸井くんのこと大好きだし、本当に―」 ―尊敬してる。 そう続けようとしたら、丸井くんがなんだかソワソワしだして、また視線を海の向こうへ飛ばして、夕日でキラキラ光ってる赤い髪を乱暴にかきまわし、飲み干したはずのペットボトルに口をつけ『空だった…』なんて呟いて。 落ち着き無く慌てた様子なのが珍しくて、オレは何か変なことを言ってしまったんだろうかと自分の台詞を反芻しても、特別おかしなことは浮かばない。 丸井くんはかっこよくて、プレーが素晴らしくて、明るく元気で優しいのは間違いないし、そんな丸井くんを本人の前で直接『かっこいい!すっげぇ!』とはしゃいで褒めまくるのも、中学の出会いから言ってること。 あさっての方角を見ている丸井くんの、制服の袖を引っ張ったら、反射的にかもしれないけどビクっとほんの僅か肩があがり、物凄い勢いで振り返った丸井くんと目が合った。 「まるいくん?」 「あ、うっ…いや、なんだ、その」 目の前には、今まで見たこともないくらい顔を真っ赤にして、こっちを見てはいてもきょろきょろ目が動いてる丸井くん。 オレンジ色に染まった空よりも、丸井くんの頬はもっともっと濃くて、挙動……不審?? 「顔、真っ赤だよ。暑い??だいじょーぶ?」 「な、何でもねぇ。大丈夫だ、大丈夫」 「熱、あるのかなぁ」 「〜っ!」 コートが必須なくらい毎日寒いけど、今の丸井くんは少し汗ばんできてるっぽいし、もしかしたら風邪か、熱が出てきているのかもしれない。 右手を丸井くんの額にあてて測ろうとしたら、叱られる前の子供みたいに眉を寄せてぎゅっと目を閉じた。 …オレ、叩かないのに。 「熱、チェックするだけだよ?」 「…悪ィ。ナイナイ、熱ないし大丈夫。元気だから」 「そう?」 らしくなく慌しく、口調もいつもの力強いものじゃなくてどもりがち。 そんな珍しい丸井くんの様子と、その真っ赤な顔を見ていたら、なんだかこっちまでソワソワして、鼓動が早くなっていく気がする。 丸井くんとコートで対峙する時の高まる気分とは違って、同じようにどきどきしているのは変わらないんだけど、それよりもよくわかんない気持ちが大きい。 最近のオレは、丸井くんに対して『よくわかんない』ことばかりだ。 茹ダコみたいな丸井くんとまではいかないけど、頭がどんどん熱を持っていくのがわかる。 このドキドキって、何? ジャッカルやあの子といる時の丸井くん、オレの前での丸井くん。 そんなぐるぐるした友情の話とはどこか違うような気がするけど、これもまた違う友達への独占欲の話? 『友情の話』の答えをもらおうと聞いた丸井くんも何だか挙動不審で、オレと同じようにぐるぐるしている気がする。 …うん、よくわかんない。 このまま丸井くんに『どきどき』を打ち明けたとしても、もっとぐるぐるさせるような……直感的に、そう思う。 来週の立海テニスコートそばのベンチで、またあの子が来たら聞いてみようかな。 少なくともジャッカルや切原よりは適切な答えをくれる気がするし、丸井くんとは小学生の頃から仲良しの後輩で、オレの知らない丸井くんをいっぱいいっぱい知ってる子だから。 またひとつ増えた『よくわからない感情』。 これ以上考えても自分じゃ答えは出ないので、あの子にヒントを貰うことにして、ここでぐるぐるするのはやめよう。 丸井くんもこんなに顔真っ赤にするなんて、体調悪いかもしれないから、今日は早めに解散するほうが良さそう。 立ち上がってリュックを背負い、丸井くんへそろそろ帰ろうと声をかけた。 (終わり) >>目次 |