丸井くんとは家族ぐるみのお付き合いなんです3






「…サンキュ」

「………しょーがないし」

「そういやティッシュも無かったな…」

「手コキすんのはともかく、どこに出すつもりだったのさ」

「だよなー」

「おさまった?」

「おかげさまで」

「早かったね」

「言うな」


溜まってたんかな〜と頭をかく丸井に、『ちょっとうがいしてきます』とテントで留守番しているよう告げる…が。


「俺も行く」

「水場行ってくるだけだよ?」

「ふらふらどっか行かないように」

「行かないしぃ」

「昼間みたいなことがあったら困るだろい」

「もう場所わかるから大丈夫だよ〜」

「いいから、ほら、行くぞ」

「…はいはい」


すでに両家のロッジは明かりが消えていて、家族が就寝している様子が伺える。
まわりのロッジやテントでも、戻ってきた当初よりも明かりの数は半減していて、自分たちのように歩き回っている人々は少ない。


手洗い場で口を濯いで、両手と顔をあらってようやくサッパリできた。


さて、帰ろうか、と来た道を戻ろうとしたら、手を握られる。


「まるいくん?」

「ちょっと、こっち」

「?」


兄らが釣りを楽しんでいた沢の方向へと連れて行かれ、大きな岩に座らされた。


「ジロくん」

「うん?」

「好きだ」

「うん」

「大好きです」

「…うん」

「愛してます」

「……なに、どしたの?」

「とりあえず聞け」

「はい」

「ジロくんの生まれた日に、こうして一緒にいれて、最高に幸せです」

「去年もおととしも、当日は遊べなかったもんね」

「俺の誕生日はジロくんに会えなかったから…」

「あれはー」

「顔見せてくれてもよかっただろい」

「まるいくん、ゲーム邪魔すると怒るしぃ」

「いくら俺でも、あんな時に怒んねぇっつーの」

「こないだケンカしたの、ゲームが原因だったじゃん」

「くっ…そうだけども!」

「だからゲーム中のまるいくんには、近づかないようにしてんの」

「……話がズレている!」

「はぁ」



軌道修正を図るべく立ち上がると、ジャージのポケットからなにやら取り出し、肩をすくめる芥川の左手に握らせる。





「誕生日、おめでとう」

「これ…」


簡単にラッピングされた包みを解くと、目に入ってきたのは互いが愛用しているメーカー、WILS○Nのロゴ。
赤い、リストバンドだ。


「中学ん時のヤツ、大事な試合のときに使ってるって言ってたけど、もうボロボロだろ?」


二人が初めてであった中学時代の新人戦。
あの時、無理やりむしりとられたリストバンドは、『大事なお守り!』と肌身離さず芥川のバッグに入っている。
大事な大事な試合のときは、そのリストバンドを腕にはめて試合をすると、絶対勝てるんだ!と浮かべた笑顔に惚れたんだ。


「今度からさ、コレ、使えよ」


彼の好きな色は、自身を表すかのように温かいオレンジ色なので、どちらにしようかカラーを選ぶさいに少し迷い、両方買ってしまった。
けれども、自分の好きな赤色を身に着けて欲しいと思ったから。


「まるいくん…」

「実はお揃いなんだ」


ほら、ともう片方のポケットから取り出したのは、オレンジ色のW○LSON。


「今度、試合でジロくんと対戦するときは、これつけて戦うから」


ダブルスの自分と、シングルスの彼では団体戦で戦うことは多分無いだろうけど。
個人戦はエントリーするつもりだし、このところよく練習試合も組んでいるので、機会はまぁ多いだろう。


「オレ、負けないから!」

「俺だって。まだジロくんに負けるワケにはいかねぇよ」

「言ったね?」

「なんなら、明日打つか?」


明日は朝食後、高速とばして帰るだけだ。
なんとなく…といつものクセでお互いラケットは車に積んでいる。
都内に入ったら適当におろしてもらって、テニスコートで打とうか、と帰るだけだった明日の予定を入れていく。


「明日、本気勝負ね」

「おう」

「やっりぃ〜」


テニスコートで軽く打ち合ったりすることは多々あるけど、真剣に試合形式でやることはあまり無い。
普段、立海の練習でヘトヘトな丸井としては、遊びのテニスは軽く流す程度にしているので、公営テニスコートやストリートテニス場で本気になることは珍しい。
芥川としても真剣に勝負をしたいところだけど、ライバルかつ恋人という存在は厄介なもので。


(一緒にいるとテニスよりイチャイチャしたがるため、丸井と真剣勝負できるチャンスがあまり無いのだ)



「ジロくん…」

「ん?」

「来年も、一緒にいような」

「うん!」



両肩をつかまれ、そのまま顔が近づいてきて、ふんわり唇に触れられた。
16歳さいごのちゅーだね、と笑顔で返すと、『可愛いすぎんだろい』と再度触れられ、今度は深く口付ける。


しばらく唇を寄せ合っていた二人だが…



「…すとっぷ」

「チッ」

「この手は、なにかな?」

「なんだろうな〜」


背後にまわった手が、どんどんとしたに下がっていって……お尻を撫でられたところでパシっと叩き落した。


「こんなトコでなにしようとしてんの」


さっきもテントで言ったのに!
と諭す芥川に対してー


「あのさぁ、俺、ひとつ頼みあんだけど」

「なんか、ロクでもないこと考えてない?」

「至極まともなことだ」

「…いままでの経験からいって、まともだったことが無いんですけど」

「いやいや、健全な男の願いってモンだ」

「『健全』ってトコがもう怪しいんだよ」

「そう言うなって」

「……なに」

「あとちょっとで日付超えるじゃん?」

「……うん」

「ジロくんの誕生日を迎えるにあたって」

「……」

「どうしてもヤりたいことがあるんだけど」

「……『ヤ』りたい?」

「お、さすがジロくん、わかった?」

「………ワカリマセン」

「またまた〜」

「もう、何考えてんだよ。ここ、外だし!」

「誰もいない」

「むりむりむりむり」

「ここに来るまで、ちゃんと周りチェックしてたから、大丈夫」

「ぜーってぇ嫌だ!」

「ジロくんの誕生日を、ジロくんの中で迎えたー」


『い』は芥川のローキックに阻まれた。


「痛ってぇ!」

「ばっっっっっかじゃないの!?」

「男のロマンだ!」

「アホかー!」






その後、小一時間あーだこーだとぎゃーぎゃー言い合いをしていたら、いつのまにか日付が変わっていて…
気づいた頃には5月5日を迎えていた。


肩で息をしながら、疲れきった二人はというと。




「…戻るか」

「………うん」



おとなしくテントに戻ることにして。

帰り際、わざわざ川辺まで連れて行った理由を問うと、テント周辺も水場も何かしらの気配がして、誰もいないところで二人っきりになりたかった、と真顔で告げられた。
誰もいないところで、いったいなにをするつもりだったんだか…というのは先ほどのやり取りを思い出したら一目瞭然ではあるけれど。




「…来年はぜってージロくんの中で誕生日迎えてやるからな」

「……ったく」

「なんなら0時になった瞬間、中で思いっきりぶちまけてー」

「アホなことばっか、言わないでよ……本っ当、まるいくんって…」




もういっちょローキックをかまして、足早にテントに向かった。
果たして寝袋で一緒に寝て、無事に朝を迎えられるだろうか……なんて一抹の不安を残しつつ。




深夜0時を過ぎて戻ったロッジ前は、他の客も就寝しているようで虫の音だけがかすかに聞こえる、静かな空間だった。




「本っっっ当、まるいくんってば、信じらんねぇ!」

「お前が可愛いすぎんのがいけねぇんだろい」

「しー!静かにっ!!」

「つべこべ言わず、触らせろ」

「もー離れてよぉ〜。っとに、サイッテーだしぃ…」





テント内で繰り広げられる攻防戦。
実にその後、2時間ほど続いたらしい。






(終わり)

>>目次

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ジロくん、誕生日おめでとう!丸井くんバージョンでした。
また小旅行か…>におくんに続き

さりげなく、丸井くん誕生日のお話と同設定にしてみました。
といってもたいしたつながりはありませんが。ただの家族旅行ですな。
この二人はこのまま大きくなって、ジロは大学生、丸井くんは製菓学校で、同棲でもするんだろうな。>同居
でもって丸井くんはフランスに菓子修行にでて、日本に戻ってきて店開くころにはジロくんをパートナーとしてー
@親公認です

またはジロくんプロテニスプレイヤーにして、世界中とびまわらせたい。
で、フランスで菓子修行してそのまま店ひらいた丸井くんのところに、どこに行っても最後には帰ってくる、と。
そんな未来話もいいな…!

地域によって大富豪、大貧民、貧民…等、呼び方や細かいルールは様々ですが。
ワテクシの地域は大貧民派です。

〜丸井くんのジロくんに捧げるアウトドア料理〜
天才的カレー、ナン、甘めのテーブルパン、ナンカレーピザ、フライドチキン、たまねぎの丸焼き
アスパラとベーコンいため、コールスロー、イワナの塩焼き、ヤマメのから揚げ
などなど。
料理上手な旦那さまですね!


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