「ぶっつぶす!!」 「わっ」 ベンチで云々魘されていた丸井を心配そうに見つめること数十分。 運悪くテニスボールが頭に直撃し、目の前で丸井が倒れたときには本気で焦った芥川だったが、よくよく様子を伺うとむにゃむにゃと寝だしたため幾分ほっとした。 偶然通りがかった知り合いの医者のおじいさんに見てもらったら、たいしたことはなさそうだとも言われて一安心。 ただ、タンコブができていると簡単な処置方法を教えてもらい、とりあえず起きるまでそっとしておこうと公営コートのベンチで寝かせた。 気持ちよさそうに寝ていたら、徐々に顔色が悪くなっていき、汗がにじみ出てきてウンウン言い出したときはどうしようかと思ったが。 そして、物騒な一言とともにいきなり飛び起きた。 「ジャッカル、どこだ……許さねぇ!」 「ま、まるいくん?」 「オラァ、逃げんじゃねぇ!!」 「ちょ、お、落ち着いて」 「どこだー!?」 「まるいくんってば!!」 「あ"ぁん!?」 鬼の形相で睨まれ、途端にビクっと体が硬直する芥川だったが、丸井も睨んでいる相手が誰かハッと気づいたようで。 「じ、ジロくん?」 「っ!」 「ご、ごめんっ!!違くてっ」 「まるいく…っ、こ、恐いC」 「わー、ごめん!!ジロくん、逃げないで」 やっと悪夢から目覚めることができたんだ。 目の前の大事な大事な恋人を、これ以上他の奴に抱かせるわけなんていくか!! 離れようとした小柄な体を抱き寄せ、人目も憚らずぎゅっと抱きしめた。 「わっ!ちょ、ちょっと、まるいくん?」 「じたばたすんな!大人しくしろい」 「どうしたの?」 「はぁ〜。落ち着く」 「…皆、見てるよぉ」 「みんなって誰だよ。知らねぇよ、んなの」 「不二くんと、千石と、鳳とジャッカルに決まってるじゃん」 「…は?」 これだけクリアに夢を覚えていることもめったに無いのだけど、残念ながら細部まで覚えている。 誰が何をやって、どういう体位で、あんな言葉で、エトセトラ。 というか、なんで1本目から4本目まで揃ってるんだ? 「ジャッカルはともかく、不二に千石、鳳…?」 「何言ってんの〜?さっきまで打ってたC」 「さっき…」 (そういえば、なんで公営テニスコートのベンチに寝てたんだっけ) 今日は日曜で、何して遊ぶか決めていたときに偶然、ファーストフードで千石に会って。 テニスに誘われ、コートに行く途中のスポーツショップで鳳と不二を見かけて。 聞けばこちらも偶然本屋で会ったらしく、二人でテニスしに行くことにしたというので、それなら一緒に、と人数が増えて。 着いたコートでは、すでにジャッカルと切原がゲームをしていた。 そうか。 それで、鳳・不二・千石、そして不本意だがジャッカルということか。 いや、ジャッカルの4本目が最中ではなかったことが、まだ幸いか? ただ、切原? (なんで赤也は出てこなかったんだ?つーか、あのまま寝てたら、5本目が赤也だったのか?) それはそれで嫌な気がする。 切原と芥川の最中なんて、夢だとしても現実で目覚めた後、切原を殴らずにいられる自信が無い。 「あたま、痛くない?だいじょうぶ?」 「頭…?」 「うん。だって、それで気絶しちゃったんだC」 心配したんだよ?と可愛らしく首を傾げる芥川に頬が緩むのを感じる。 だが、コートの方から聞こえてきた声に、抱き寄せた芥川の髪を撫でる手が止まった。 「ばっ…芥川サン、それ言っちゃ」 「…素直に謝ってこい」 「わー、ジャッカル先輩!!せっかく覚えてねぇのに、蒸し返さないでくださいよ!」 「ブン太、大丈夫か?」 (あ、見慣れたハゲ) 4本目で芥川に口付けようとしていた、許せない男。 だがしかし、自分を何よりも誰よりもわかってくれる最高のダブルスパートナー。 「ジャッカル…」 「後ろ、腫れてねぇか?」 「うしろ?なんなんだよ、頭がどうしたって?」 「まるいくん、本当に大丈夫?」 「大丈夫って言われても……痛ーっ!」 「触っちゃダメだよ〜」 あまりに頭を気にされるため、後頭部を手で確かめたらプクッと腫れていて、触るとものすごぉく痛い。 「なんだ、これ?!痛ぇし!」 「思いっきり頭にボール入っちゃったから、痛いでしょ」 倒れこむくらいだし、と心配そうに見つめる芥川。 後頭部の腫れに気づいたら、一気に痛みが出てきたような気がした。 そのままジャッカルに視線を投げると、彼の心配そうな視線の先に――って、切原? 「おい、赤也」 「…いや、その」 「今謝る方が傷は浅いぞ」 切原の肩を押して、丸井の方へ向けさせる。 ―まさかっ 「赤也、まさかお前か!?」 「わー!!すんません!!」 「にゃろう、許さねぇ!!」 「わざとじゃないッス!」 「当たり前だ!」 「ま、丸井先パイが避けないから」 「俺のせいだとでも言うのかよ?!」 「鈍いのが悪いんスよ!まさかあーんなにキレイに後頭部直撃するなんて、思いもよらなー」 「あ゛ぁぁ?!」 足元に転がった黄色いボールを手当たり次第、切原に向けて投げつけるも全てをひょいひょい避けられ、余計にイラついた。 きょとんとしていた芥川は、慌てて止めに入ろうとするもジャッカルに制される。 「…ああなったら赤也を殴るまで収まらねぇ。ヘタに入ると危ねぇぞ」 「でも、丸井くんが」 「ブン太ならいつものことだから、平気だ」 「でも…」 「ここは俺が見とくから、不二たちのところに避難しろ」 でないと見境なくなった二人のボール投げあいの応酬に巻き込まれるに違いない。 「ジャッカルはー」 「俺は巻き込まれ慣れてるから、大丈夫だ」 言い切るジャッカルに、何だか申し訳ない気持ちにもなった。 あんなに優しくてかっこよくて、…多少は強引でマイウェイだが、それでもいいお兄ちゃんな丸井が、カっとなって後輩追いかけまわしているあげく、最大の理解者であるダブルスパートナーのジャッカルに、苦労ばかりかけている、なんて。 (普段のこのコンビを見ているとわかりきっていることとはいえ) 「ほら、向こうで不二たちが呼んでるぞ。いいから、行って来い」 「うん……ごめん」 「はは、お前が謝るなよ」 「丸井くんってば…」 「中学ん時からちっとも変わってねぇよ、あの二人は。さ、早く逃げろ」 そろそろ黄色いボールの投げあいが始まる頃だ。 奥のコートで打ち合いをしている千石と鳳のジャッジをしつつも、こちらの喧騒に気づき芥川を手招きしている不二の元へ、戸惑っている彼を送り出した。 我に返った丸井にぶーぶー文句を言われるかもしれないが、それ以上にボールが芥川を直撃するほうが文句を言われるに違いない。 「お前のっ…お前のせいで!」 「なんだよ、謝ってるっつーに」 「ラッキーだったな。お前が5本目だったら、八つ裂きにしてやるところだ」 「何の話をしてるんスか!」 「うるせぃ、逃げるんじゃねー!」 「逃げるに決まってるっしょ」 「待ちやがれ、赤也っ!!」 「へーんだっ!追いついてみてくださいよ」 互いにボールを投げあいながら、徐々にコートへ入っていく。 どちらもラケットは握っていない。 ひたすら相手から投げられるボールをキャッチし、下に転がっているボールも複数つかみ、雪合戦よろしく投げ合っているだけだ。 せっかくコートにいるのだから、テニスで決着をつけろ。 ジャッカルの呟きも空しく、多数のテニスボールが宙を舞った。 (終わり) >>目次 ********** どんどん楽しくなってきました。笑。 いやぁ、この『至上最大の恐怖』、プリガムレッド、どれも楽しくかけました。 におくんのときは、久しぶりに楽しいな〜と思いつつ書き上げましたが、続く赤也でもっと楽しくなるという。 少し日にちをあけて丸井くん編をかいたのですが、いやいや、3人の中で一番楽しかった。 当初は鳳・跡部・不二の予定だったのですが、跡ジロが書けんかった……大好きだけれども。よって千石になりました〜。 って、意外と好きなカプでもあります。千ジロ。あまり無いけど。 ジャッカルで終わり、目覚めた丸井はジャッカルを殴りにいくはずだったのですが、かいているうちに赤也になっちゃった。 だってジャコは苦労人でいつも丸井の面倒をみてくれて、いい人だから殴れないんだC。 丸井編が一番長くなっちゃった……愛ゆえ? |