B.切原赤也の葛藤4






「好きです」

「うん」

「大好きです」

「…うん」

「これ以上ないくらい、大切なんです」

「…照れるから、もういいC」




突然現れた(と本人は思っている)切原は、玄関先で出迎えてくれたジローに、開口一番『話しがあります』と一言。
すぐさま彼の部屋に行って…と思ったが、時刻的にはちょっと遅めの夕飯時。
お馴染みの彼の母親に、『赤也くん、ご飯は食べたの?』と聞かれたら、食べたようなお腹すいたような…

『ハンバーガーと、ポテトちょっとだけ…』

『じゃ、用意するからお風呂入る前に食べちゃいなさい』


自分はまだ『泊まります』『泊まっていいですか』等、何も言ってなかった気がしたが、時刻も時刻だからなのか。
彼の家族は、自分が訪れたときから泊まるものとして、風呂場のタオル、布団、まくら…と、ささっと用意してくれるところが、嬉しい。


『あかやー、お風呂あがったらF1やろ〜!』

『おー。コース決めとけよ〜』

『鈴鹿!ぜったいスズカー!』


愛しい彼の妹は、彼と同じふわふわした髪に、パッチリ大きな目で見上げてきて、これまた可愛い。
よく遊びにいくと、彼ともその妹とも、漫画を読んだりゲームをしたりするのだが。
中でも最近、レーシングゲームにハマっているらしい彼の妹に、こうやってお誘いを受けるのはいつものこと。


そう、いつものことでー






結果。

いつものようにご飯をご馳走になって、お風呂をいただいて。
風呂上りには冷えたフレッシュジュースとお菓子が用意されたリビングで、芥川兄妹とプレステ3で遊んで。

夜も遅くなると、母親の『寝る時間よ〜?』で、ゲームを片付け3人仲良く2階にあがる。
ジローと妹の部屋の真ん中には長兄の部屋があるのだが、現在は旅行か研修か不明だが、とりあえず数週間不在らしい。


そのまま彼の部屋に入り、本棚から読んでない漫画を取り出した。
ベッドで横になりながら漫画の頁をめくるジローと、そのベッドに背を預け同じく漫画を読み進める切原。

が。


しばらく頁をめくり、ハッとした。




(これじゃ、いつもと一緒じゃねーか!!)



なにしにここに来たんだ。




「ジローさん」



ジローから漫画を取り上げ、自分が読んでいたものとともに、本棚に戻した。
きょとんとしている彼を見やり、そんな表情もたまらなく可愛いな…なんて思いつつ。

ベッドの上にあがり、正座すると、寝っ転がっていたジローも同じように正座して向かい合った。



「好きです」


真っ直ぐに目を見て、告げられる言葉。
真剣なまなざしに、答える声も、ついシンプルなものになってしまう。


「うん」


そっとジローの両手を掴み、ぎゅっと重ね、告白を続けた。



「大好きです」

「…うん」

「これ以上ないくらい、大切なんです」

「…照れるから、もういいC」


目を逸らさず言い続ける切原に、なんだかそわそわして、照れくさくなってしまう。



「俺…アンタのこと、大切で」

「…ん」

「どうしたらいいのか、わかんなくて」

「…」

「でも、今のままじゃイヤで」

「…」

「俺…」

「…」

「その…ええと、…」


ヤリたいんです!
と宣言?いや、直球で聞きにきたはずなのだが、彼を前にすると、やはり…

またループに戻りそうな切原を止めたのは、愛しい恋人の方でー


「赤也。好きだよ?」

「へ?」

「オレ、ちゃんと赤也のこと、すき」

「ジローさん…」

「赤也だったら、いいから…」

「え…」

「ちゃんと、わかってる。
オレだって、赤也のこと、大好きだから」



同じくらい、欲しい、って、思ってるよ?




優しく告げると、目が点となっていた切原の頬が、どんどん赤く染まっていった。



「…俺、やっぱジローさん、大好き」

「うん」

「最後までしてぇ」

「ん。」

「初めてだし、俺、下手かもしんねぇけど」

「だいじょーぶ。何とかなるモンだよ」



「………俺の初めての人に、なってください」



「……」

「あの…?」

「……」

「ジローさ」


がばっ



何だか可愛らしいセリフを紡いだ彼が、物凄く愛しくなって、咄嗟に自分より少し大きい体を抱きしめた。



「もー、反則だよ〜」


超かわいいC!



くねくねっている黒髪を、胸元へ引き寄せぎゅーっと抱きしめると、じたばたしながらも観念したのか、おずおずと両腕をまわし、抱き返してきた。




「…いいッスよね?」

「うん」



キスを交わすのはいつものこと。
でも、今夜は『いつも』から脱却する、大切な夜。


「んっ…」


今まで躊躇していたけれど、それじゃだめだ。
そう決意し、あわせた唇から舌を忍び込ませ、彼のものと絡ませあう。


「あ…っ…んん」


果たしてどちらの声なのか。

触れたらさっと引いていた彼が、深いキスを仕掛けてくる。
それに嬉しくなって、ジローも積極的に答えていった。

そのままベッドに押し倒し上からキスを続けつつ、左手で彼のパジャマのボタンをひとつ、ふたつ…


「んんっ……あ…」


はだけた隙間から手を忍び込ませ、彼の肌を直に触れる。
華奢な恋人だが、普段鍛えているだけあって、筋肉質…ではないが、程よく弾力があり、引き締まったしなやかな肢体。

ゆっくりと這い回っていた手が、突起に触れた途端、甘い声があがった。
そのままじっくりと、集中的にいじっていたら、徐々にツンとかたくなってきて。


深く確かめあっていた唇を離し、そのまま鎖骨へ滑らせ、やがてもう片方の突起へたどり着く。
そのまま口に含み、舌先で刺激を与える。
ツンと上向いたところで、指で挟みぐりぐり強くこねくりまわすと、高い声があがり、自身も熱くなってきた。


「あっ…ん、あかや…」


(ジローさん……エロい)


頬を上気させ、喘ぐ姿は、もちろん今まで見たこともない彼であり、期待していたシチュエーションでもある。
次は、次はー

頭の中で、今までためてきた『予備知識』をフル動員し、左手を彼のズボンに忍び込ませる。
直接、彼のものに触れたら……不思議と、愛しさだけが増して、気持ちよくさせたいという気持ちが強くなった。



「あっ、んん…っ。あかやもー」


切原に触れられ、ゆるゆると手元を動かされて反射的に声があがる。
だが、同じようにしてあげたい、と思う気持ちは変わらないだろう。


「んっ…ジローさ…っ」


片手で切原のパジャマのボトムをパンツごとさげて、出てきた彼自身にー

すでにピンと主張していることに少しびっくりはしたものの、そのまま握って、ゆっくりと扱く。



「あっ、はぁ、んんっ…」

「うっ、あ、っ…」



やがて重なり合い、お互いが手にしている互い自身をすりつけて、こすりあうとたまらない快感があふれてきた。
夢中になってやっているうちに高まりあい、そして、同時に果てる。





「はぁ、はぁっ」

「ふぅ…」



目が合うと、妙に照れくさい。
上から見つめてくる表情は…真っ赤な顔で、正気に戻ったとでも言うのか、なんだかアタフタしているような。


「くっ…あはは!」

「な、ちょっ!」


突然腕の中で笑い出した年上の恋人に、プライドが刺激されたのか、抗議の声をあげる。


「違っ、ちがくて…ははは!!」

「なんだよ」


あっぷあっぷ状態の切原をからかっているわけではない。
情けないとか、そんな風に思ってないし、カワイイーって、そういうのでもない。
ただ…



「あかや、元気だねぇ」

「へ?…あ。」



ちょっと照れ隠しもあって、つい零れてしまった笑い声だったのだけど。
ふっと視線を下げたら、同時に果てたハズの彼が、首をもたげている。



「あ、いや、コレは」

「あはは」



健康でよろしい。
と、恋人ににっこり微笑まれると、どーしたらいいものか。
髪ぽりぽりかきながら、ええと、続きをーと考えようとするが、マズイ、『予備知識』が出てこない。


(あれ、俺、どーすればいいんだっけ、、、あ、そーだ)


正解は、ここに来る前に寄った薬局でゲットした、クリーム類。
かばん、かばん…
あ、本棚の前だ。


思い出した途端、自分の下で仰向けになっていた彼が、『よいしょ』と発したと思ったらー



「へ?」

「じっとしてて」



(あ、いや、その…なんで、俺がー)



押し倒されてんでしょーか?



なんて疑問を口にする前に、愛しい人のふわふわした金糸の髪が、下がっていってー




「!!」



(うっそ、マジで…?!
うわっ……)



「あっ…ジローさ…」



ぴちゃぴちゃ。


(音…すげぇ、エロ…、つーか、ジローさん…やべぇ)



扇情的な赤い舌が、ちろちろと見え隠れする。
右手で根元を支え、左で愛撫しつつ、上からグラインドさせ、たまに舌をチラつかせて舐めあげられると、たまらなくイイ。



(これって、これって…)



聞いたことはあるし、エロ本で見たこともある。
『予備知識』の中にも、もちろんあったことだし、自分がやるつもりももちろんあった。

ただ、『してもらう』のは予想していなかったというか。



「はぁ、はぁ…んんっ」



(やべぇ、っ…ジローさんの口ん中、ちょー気持ちイイ…)




根元と袋を愛撫されながら、先端を強く吸われたときに、今まで以上の快感が襲ってきて。



「――っ!!」



そろそろかな、と彼が口を離した瞬間、花のようなかんばせに、思いっきり…どばっとかけてしまった。




「はぁ、はぁ、はぁっ」

「…かかっちゃった」


口元についた白濁したものを、ぺろりと舐めて苦笑する彼が、なんだかすごく色っぽくて、大人っぽくて。



「はぁ、はぁ、っ、ジローさ…」

「うん」



息を整えて、まず落ち着こうか。
まだ呼吸が乱れている切原に優しく微笑んで、ぽんぽん、と頭を撫でてやる。



「ん…」




気持ちいいのか、そのまま両目を閉じたので、何度も何度も撫でて、髪をすいて、たまに頬にキスして。



…を繰り返していたら。






「…あれ?」

「……」

「あかや…?」

「……」



だいぶ呼吸が落ち着いてきた、と思ったら、落ち着きすぎている?

撫でていた手を止めて、顔を覗き込むと…




「…うっそぉ」

「Zzz……」

「まじまじ?」

「ん…zzz」


ためしに鼻をつまんでみたが、ぴくっと一瞬動いただけで、それ以上の反応が無い。

あらら。




「緊張が解けたのかな〜?」



ま、ぐるぐる悩んでたもんねぇ。




携帯から聞こえてきた3人の会話を思い出し、思わずふっと笑みがこぼれてしまった。

散々考えて、悩んで、悶々して。
ようやく決意してここまで来たのだろう。



うん、今日は頑張った。



乱れたパジャマを着せてあげて、布団を上からかけてあげた。
自分のベッドは……二人で寝るには、ちょっとキツイから。


ささっとトイレを済ませ、手洗い・うがい、顔を洗ってサッパリさせて、部屋に戻る。


ベッドには、気持ちよさそうに眠る姿。
いつのまに、自分の抱き枕を抱えて熟睡している。



まったく、可愛いものだ。



母が切原用に敷いてくれていた布団にもぐり、電気を消す。
明日君は、落ち込むかもしれないけど。


起床一番に落ち込む姿を想像すると……ばっちり予想が現実になりそうで、ある意味面白い。
けれど、落ち込まないように、一生懸命慰めるとしよう。



うん、ごめん、オレ悪かった。
『赤也には刺激が強すぎた』
なんて言ったら、ふれくされちゃうかもしれない。


なんとか、うまいこと言っておかなきゃ。
まぁ、いざとなったら……彼の先輩たちに、お願いするとして。






とりあえずはおやすみなさい。









(終わり)


>>目次

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『恋のABC』、Bを担当する切原くんの、チェリー卒業できなかった回 >え。

本当は……
エッチまでいけなくて、これじゃいかん!と奮起した赤也がオサワリに挑戦。
が、ジロくんにパクっとされて。気持ちよくてソッコーでイッて、満足で寝ちゃう、、、という、短くライトなアホエロだったはずなんですが。
勝手にプリとガムが出てきた… >驚

ワテクシ、赤也に『俺の童貞、もらってください!』と言わせたいらしい。
が、それは『切原赤也の初恋物語』にとっておいてるから、別のセリフにー

>「………俺の初めての人に、なってください」

一緒やんけ。

(『初恋物語』よりこちらが先に出来ておりましたゆえ。)


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