A.丸井ブン太の自制2




「ちょ、待って、ジロくん!」




慌てて追いかけ、ベッドルームに入ると、そこには頭から布団をかぶったジローの姿が。
金糸の髪が、ちょこっとだけ出ていて…



「ジロくん」

「……」



ベッドに腰かけ、少し布団をめくってみるが、突っ伏したまま顔をあげてくれない。


「なぁ、ジロくん」

「……」


ちょっと撫でてみると、一瞬びくっとしたが、それでもうつ伏せの姿勢のまま。
苦笑して、金の髪に軽く口付けると、パッと顔をあげて一言呟いた。






「髪にはちゅーするんだね」






そして、また突っ伏した。



「ジロくん」

「……」

「おーい」

「……」

「なぁ、顔あげろよー」

「……」

「そっちじゃなくて、こっち」



枕をぎゅっと抱えこんでいるジローの両腕をパッとあげて、そのまま自分の腰にまわさせる。
一瞬、放そうとして少し動いたジローだったが、思いがけなく強い力でがっちりつかまれていて、解けないと悟ると早々と諦めた。


「なぁ。起きてるだろい」

「…すぴー、すぴー」

「ふっ…、あはは」


可愛いことしてんなよ?


あくまで寝たフリを続けるジローの頭をあげさせ、おでこにチュッと口付ける。
そのまま、


「可愛い顔みせろい」

目尻にキスして、

「ほら、目あけてくんねーと」

鼻にもチュッと。

「あんま俺のことイジメると、イタズラすっぞ」

首筋に唇を寄せると、ビクっと震えて目を開きそうになったが、それでも耐えてぎゅっと目を瞑る彼が愛しくてたまらない。




「イジめてないしぃ……」

「お。起きた」

「まるいくん…」

「はいはい」

「抱っこ」

「…喜んで」


そのまま起き上がらせて、正面からぎゅーっと抱きしめ、ひざの上に乗せる。



そのまま、あらゆる部分にキスの雨をふらせる丸井に、大人しくつきあうジローだったが。



「…なんで、口はしないの?」



もっともな疑問をぶつけてみた。
先ほどキスを拒んだつぐないかのように、抱きあげたままあちこちにキスをしてくるが、口の少し下や口元にはしてきても、唇には触れてこない。


エッチして、お風呂はいって、キスして。
アレコレしているわけだから、丸井になにかやましいことがあるーや、自分が原因でー等とは思ってはいないが、なぜ口にだけしないのかはサッパリわからない。


先ほどは、言わない丸井に焦れて、諦めて、もういい!とベッドに引っ込んだジローだったが、追ってきたのは丸井だ。
今度は諦めない!と、両目を大きくあけ、じっと見つめた。

すると。




「……」

「……」


「……しょーがねぇ」


ガサガサ…


ベッド脇のコーヒーテーブルにかけてあったバッグに放っていた財布から、なにやらカードを取り出してきて…




「歯科医院?」

「…おう」

「まるいくん、歯医者通ってんの?」

「次で終わりの予定だけどな」

「?」



それと、キスと、いったい何の関係が…?



「わかんないC」

「へ?」

「なんで、歯医者に通ってると、チューしないの?」





―まるいくん、意味がわかんない。


―まじで言ってンかい。さてはジロくん、知らねぇんだな?




「俺、いままで虫歯とか殆どなったこと無かったんだけど…」

「うん」

「この前、急に痛くなって」

「で、歯医者?」

「1本だけだったからすぐに治せたし、次で終わりっつーか、次は最後のチェックなだけだからほぼ完治はしてんだけど」

「……」

「ただ、もう痛くねぇし俺的には99%OKなんだけど、万が一があるから最後のチェックで完治してからじゃねぇと」

「……はぁ」



そして、意味不明なことを言い放った。






「ジロくんにうつしちゃうだろ!!」

「…………………は?」




きょとんと目をまるくして、丸井に向かって首をかしげるジロー。
そんな姿も一段と可愛いな、と頬がゆるみそうになる丸井だったが…
続いたセリフに、こちらも目が点となったようで。





「まるいくん、意味わかんない」

「…………………は?」




―わかんないって言うジロくんがわかんないんですけど。

―いやいや、歯医者さん通ってるのの因果関係がサッパリハテナなんですけど。

―だぁかぁらぁ、うつるからだって言ってるだろい。

―だーかーらー、何がうつるってのさ。

ーおまっ…そりゃ、このズキズキの原因に決まってるだろ。




「…なんで、キスしたら虫歯うつるの?」

「うつるだろ!!
だって、ベロチューだぞ?
唾液が交じるんだぞ?虫歯の菌がジロくんにはいって、ジロくんの真っ白でキレイな歯にうつっちゃってー」

「あーはいはい」

「あしらうな!」

「キスじゃ虫歯ってうつんないC」

「いやいや、うつるって。だって仁王がー」




―いや、もちろん、俺だって最初言われたときは『ウソだろ?』って問い返したけど…
でも、仁王がひどくマジな顔で、『虫歯菌をナメちゃいかんぜよ』っつーし。
幸村くんも最初笑ってたけど、本当かよ?!って聞いたら、真面目な顔して
『かわいそうだけど、完治するまで芥川にさわらないほうがいい』っていうし。

そしたら柳が『さわってもいいが「虫歯菌」がうつる行為はよしたほうがいい』って!
あの柳生すら、『ちゃんと完治するまでは控えたほうが宜しいですよ』とか言ってたし―





(いやいや、本ッ当……におくんも、幸村くんも。カンベンしてよ)





からかいすぎ。
まるいくん、信じやすいんだから。







「っ、ジロくー…っ」

「んっ…」



若干混乱している丸井の首に手をまわし、そのままぶちゅっと唇をつけて、少し半あきになった隙間にすかさず舌を忍び込ませる。



「んんっ…」

「…んう……うっ」


丸井の口内を好き勝手していたジローだが、ある一点に舌が触れたとき、答えていた舌が一瞬止まったため、原因のスポットかと推測する。
が、おかまいなしに丸井を絡めとり、そのまま『本日最初のキス』を堪能した。




「はぁ、はぁっ…」

「っ…はぁ。…まるいくん、ごちそーさま」



テヘ。

イタズラっぽくウィンクすれば、目の前にはしょーがねぇとため息つきつつ、あたまをかいて苦笑する恋人の姿。



「なぁ、本当にうつんねぇの?」

「あのね?そのそもー」





虫歯とキスの因果律。


いや、そんなものは無いよ。
まるいくんが虫歯じゃなくて、すんごいわる〜い菌でももってて、唾液で感染しちゃうとかなら虫歯とはまた違う問題が出てくるだろうけどさー
でも、虫歯なんでしょ?
んで、それ以外はまったく問題なく健康でバッチリなんでしょ?
じゃ、問題ないじゃん。




と、至極まっとうかつ、丸井が誤解をとくように懇々と説明した。








「仁王のヤロォ……」

「また騙されちゃったね」

「今度こそ許さねぇ…」

「ね。とりあえず、今はー」

「ん?」

「キスして?」

「…おう」





抑えていたぶん、たくさんキスをしよう。






「てういかまるいくん。
ちゅーは躊躇するのに、エッチは我慢しないんだね」

「あったりまえだろい」













そして後日。


「別にイジワルでもないけん」

「まぁ、少しうっとおしかったからね」

「頭に花が咲いてたけぇ、抑制させる切欠を与えただけじゃき」

「まさか信じるとは思わなかったのですが…」

「柳生よ…相手はブン太。信じるに決まってるぜよ」

「ははは。まさか芥川がそうくるとはね。少々意外じゃないかい、柳」

「そうでもないぞ精市。芥川はあれで成績優秀、特に理数系に秀でている」

「感情優先のように見えますけど、意外ですねぇ」

「ジロちゃん、スチャラカに見えて実は頭いいからの〜」

「1年時より跡部に知識・教養・マナーと多種多様叩きこまれてるようだからな」

「柳、何情報だい?それは」

「ふっ…。2年時の氷帝との練習試合以降に積み重ねたこのデータの中からだな。ソースは秘密だが」

「あぁ、オレがいなかったときにやったやつか」

「丸井君と芥川君の出会いですね」

「出会いはもうちょっと前の、新人戦のときじゃろ」

「あぁ、そうでしたね。丸井君が芥川君に勝った試合でしたっけ」

「練習試合ではいい勝負しとったがの」

「まさかあのような展開とは、さすがに予想できなかったな」

「あれは誰も予想できませんよ」

「確実にブン太がポイントとられたと思ったんやがのぅ。まさか、あんな…」

「あぁ、芥川が寝てしまったんだっけ。すごいよねぇ、彼。まさか試合中に寝る選手がいるなんてね」

「あれがブン太とジロちゃんの運命の日だったんじゃの」

「まさかのお付き合いでしたからねぇ」



云々…と、延々と会話が続きそうになったとき、部室の端で着替えていた張本人が…




「お前ら……まる聞こえなんだよ! つーか、また騙しやがったな!?
それに………柳、そのノート。ヘンなモン書いてたりしねぇだろうなぁ…よりによってジロくんのデータだと!?

見ーせーろ!!!」




立海大付属高校テニス部部室。
そこには、着替える部員を背景に…
ぎゃーぎゃーと騒ぐ丸井をハイハイとなだめつつ、ノートを高くかかげ、ひょいひょいかわす柳蓮ニの姿があった。






(終わり)

>>目次

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『恋のABC』、A担当の丸井くんでした。
OVA『アノトキノボクラ』設定をちょい借り。


ジロくんを気にかけてーみたいに前半言ってますが、基本的にワテクシのブンジロにおける丸井くんはー
仁王、切原、丸井の中では一番、自分一番!自分中心!で、ジロちゃんにすき放題しております。
ジロちゃんもため息つきつつ付き合うという。



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