冬・12月29日





「じゃ、また来年」

「おう。大晦日は氷帝の連中と、二年参りだよな」

「うん!毎年恒例の、冬休みの氷帝行事だよ」

「そっか」

「丸井くんは?」

「家でゆっくりかな。ま、1日か2日に、部活のヤツらと神社行くかもしんねー」

「そしたら、次会えるの、始業式あけて?」

「年始は母さんの田舎にも行くしなぁ。4日か5日あたりなら」

「あー…そこ、お父さんの親戚のとこ、行く予定」

「じゃあやっぱ、始業式後か」

「そだね。学校始まってから、また立海行くね!」

「おう」

「今日はどーすんの?これから」

「ジャッカルん家。ちょっと打とうかなーと」

「いいなぁ〜」

「ジロくんは大掃除だろ?」

「オレもテニスがいい〜」

「また妹に怒られるぞ」

「まじまじ、こわいんだよ〜?はぁ。しょーがないかぁ」

「年末だしな。俺も明日は大掃除手伝わねーと。ま、頑張れ」

「は〜い。丸井くんもね」

「おう。じゃあな」

「「よいお年を」」




(はぁ……行った、か。
ジロくんの顔、ちゃんと見れねぇ……だぁ!ったく、昨晩のアレは……拷問だろ。
寝てるアイツ見ながら抜いたなんて、ぜってぇ言えねぇし。
中学生か、俺は。

……テニス、テニス。
よし、ジャッカルに電話すっか。今日は家にいるはず。
さっき家出る前にメールしたらヒマだって言ってたし。ラケット取りに帰……いや、あいつの借りるか。
軽く打つだけだし)




『ハーイ、そこの高校生くん』

「…?」

『久しぶりの顔ね。お姉さんと、遊ばない?』

「……あ」



(水色のシトロエン……確か、オーダーでカラーリングした車で、メイドインフランスだからって、フレンチご馳走してくれた…
今みたいに路上で声かけてきて……ジロくんと付き合う前だから、夏前、か?)



『見−ちゃった。可愛い子ね』

「え?」

『ふわふわの金髪で、笑顔がとってもチャーミング』

「……」

『すんごく可愛いから、声かけたくなっちゃった。なーんて』

「アイツはダメだから!」

『あら』

「あ…いや、その。そういうんじゃなくて―」

『ブン太君の大事な子ってわけね』

「な、何言って…」

『ふふ。そんな顔しちゃって。バレバレよ?』

「うっ…」

『そんな年相応の顔も、出来るのね』

「…?」

『夏の君は、正直高校生に思えなかったけど、今は青春してるってカンジ』

「…何言ってんスか。アイツ、男友達で」

『なら、私、声かけてもいいの?』

「!!ちょっ」

『嘘よ、うーそ』

「くっ…」

『ブン太君の、好きな子なんでしょ??』

「…男、友達だって」

『あらら。悩み事?』

「別に…」

『お姉さんが聞いてあげましょうか?』

「何、言って…」

『下心なんて、何も無いわよ。純粋に、久しぶりの顔見かけて、声かけただけ。
ふふ。いい思い出だしね?』

「……」

『ちゃんと恋人もいるし、これからデートなの』

「…なら」

『待ち合わせまで時間あるから、お姉さんの暇つぶしに付き合ってくれない?』

「……」

『夏に、何回かデートした仲、でしょ?』

「……」

『お姉さんが恋愛相談にのってあげましょう』

「…なんスか、それ」

『あの子見送ってるときの君、すっごく優しい、いい顔してたから。
いいじゃない、高校生の恋愛って感じで』

「だから、男だって…」

『好きなんでしょ?』

「……」

『見てればわかるわよ。それに、年上のお姉さんキラーだった君が、そんな顔するくらいだもの』

「……」

『本気なのよね?』

「……」

『そういう友達もいるから、偏見なんて無いわよ』

「偏見って。そういうわけじゃ」

『……そこを悩んでるわけじゃないのね。となると―』

「…え、ちょっと?」

『可愛くて、純粋そうな子だったわねぇ。目がきらきらして、無邪気で』

「……遠目でそこまでわかるのかよ」

『なるほど、そういうこと』

「え」

『プラトニック?』

「ぶっ…ごほ、ごほっ…!」

『当たり?ふふ…あのブン太君がねぇ』

「ごほっ……ちょっと」

『ほーら、お姉さんに話してみなさい。乗って?』

「…あのなぁ」

『襲わないわよ。すぐそこのカフェ、付き合ってくれるくらいの時間、あるでしょ?』

「はぁ…」

『オネーサンにだって、純粋な学生時代があったんだから。ちょっとは気持ち、わかるつもり』

「……」

『ほーら』

「…あのさぁ」

『うん?』

「……初めての時って、怖いモン?」

『…やっぱりそういうコト、ね』

「何言ってんだ、俺。あーすんません、忘れて」

『こんな路上で話す内容でも無いし、はい、助手席乗って?』

「……」

『ほーら!これ以上路駐したら怒られちゃう。―乗りなさい』

「……ハイ」

『よろしい』




(はぁ……何でこうなったんだ。
まぁ、でも……ジロくんのこと知らない人の方が、いいのか。
こんなの誰にも相談できねぇし。

あ。ジャッカルにメールしとかねぇと)











「ゲームソフト、丸井くん家に忘れちゃった…?」


(どうしよ…岳人に怒られる!
今から戻って取りに行けば、大掃除までに間に合うかな。
でも、丸井くん、ジャッカルん家に行くって言ってた。
…さっき別れたばっかりだし、まだ駅前にいるよね?)




「あ、いた!まるいく―」




―パステルカラーの水色の車に、長い髪の綺麗な女性。
助手席に乗り込んだのは、見慣れた赤い髪。




「……まるい、くん?」





―睨むなよ。有名じゃん。立海の丸井と仁王。
テニスも凄いけど、プライベートもしっちゃかめっちゃかだって。



(岳人…)




「へへ。見間違い、だよね……だって、ジャッカルのうち、行くって言ってたし。
あ、そーだ。最近本屋行ってねぇや。新刊、まだ買ってないし……寄ってこ。
…っと、メールだけしとこ」




>>>昨日&今日はありがとう。
すっごく楽しかった!お世話になりました。
今年一年、すっごくいい年だったよ。来年もよろしくお願いします。

丸井くん家にゲームソフト忘れたっぽい。
戻ろうと思ったけど、今度取りにいきます。<<<











「芥川…?」

「(あ、新刊発見!やっぱまだ持ってないヤツだし〜)」

「おい、芥川?」

「わっ!」

「あ、わるい」

「びっくりしたー。誰かと思ったC」

「珍しいな、一人で。こっちにいるってことは―ブン太と一緒だったのか?」

「…うん、さっきまで」

「やっぱりな」

「ジャッカルは?何してんの」

「この近くに行きつけの珈琲屋があるんだ」

「そういえばコーヒー好きなんだっけ」

「ああ。ちょうど豆が切れてな。年内最後の買出しだ」

「あ、でも。丸井くん、これから来るんじゃねぇの?」

「ブン太?そういやちょっと前にメールきてたな」

「(家出る頃、かな)
軽く打つんでしょ?」

「いや、最初来るって言ってたけど、さっき無しになった」

「え…?」

「ついさっきだな。やっぱ止めるって。何か用事できたらしい」

「そうなんだ…」

「お前は?」

「…?」

「帰るんじゃねぇのか?これから」

「あー…うん、ちょっと、ブラブラしよっかなーって」

「そうか。…なぁ、ちょっといいか?」

「うん?」

「俺ん家、近いから」

「?」

「美味い珈琲、淹れるから一杯飲んでくか?」

「……」

「苦手なんだろ?」

「…なんで、それ」

「ミルクも砂糖もいれるって聞いてな。珈琲好きとしては、一口目はストレートで飲んで欲しいモンだし」

「……そんなに、違う?美味しい豆って」

「全然違うぜ?モノは試しだ。飲んでみろよ」

「…うん」

「じゃ、行くか」

「お邪魔しマス」











「あれ?ジャッカル先輩に、芥川サン?」

「赤也」

「珍しいコンビっスね」

「お前こそ、一人か?」

「河川敷のコートで、一汗かいた帰りッスよ」

「そうか」

「お二人さんは?」

「駅ビルの本屋で会ったんだよね」

「ああ」

「で、遊んでるんスか?」

「コーヒーのみに行くところ」

「は?コーヒー?」

「ちょうど豆買った帰りでな」

「ああ、ジャッカル先輩のコーヒー豆ね」

「美味しいコーヒー、飲んだこと無いからトライすんの」

「へぇ〜。美味いんスかね」

「切原も、コーヒー飲めない系?」

「べ、別に飲めないワケじゃないッスよ」

「嘘つけ。ミルクと砂糖無しじゃ飲めないだろ」

「な―」

「わぁ、オレと一緒だC!」

「…芥川サンも、そうなの?」

「にっがいから、苦手なんだよねぇ」

「ですよねぇ?!」

「そうそう。コーヒーゼリーは好きなんだけど」

「でも、生クリームかシロップ、クリープが無いと食えなくないッスか?」

「アレはコーヒーゼリーとセットでしょ。単体なんて食べれないC」

「だよなぁ。わかってんじゃん」

「…変なとこで意気投合してんのな、お前ら」

「で、ジャッカル先輩んとこ行くんスか?」

「うん。美味しいコーヒーを淹れてくれるんだって」

「ふーん」

「すっごく美味しいの飲んだら、ストレートでもうまい!って思うかもしんないし」

「…そんなもんですかね」

「そうなんでしょ?ジャッカル」

「まぁ、苦い以外の感想を持つ切欠になるかもしれないな」

「えへへ、ストレートで飲めるようになるかもだし」

「!!まじ?飲めるようになんの?」

「赤也……苦手なヤツがいきなり美味しく感じるとは限ら―」

「よっし、じゃあ俺も行くッス!」

「お、仲間?一緒に克服する?」

「べ、別に飲めるけど、美味いかは別の話っしょ」

「飲めないなら飲めないでいいのに」

「コーヒーくらい、ストレートで飲めます!」

「ふ〜ん。オレは飲めないよ」

「え…」

「いいじゃん。苦いのは苦いもん。かっこ悪くないし、全然子供っぽくも無いっしょ」

「……ホント?」

「ほんとほんと。飲めなくて悪いかー!って」

「……そーっスね」

「うん!じゃ、行こ!」

「よし、行きましょう、ジャッカル先輩!」

「あーわかったわかった。引っ張るな、お前ら…」











「丸井先輩じゃなくて、ジャッカル先輩っつーのが珍しッスね」

「そう?」

「うん。だってアンタ、丸井先輩に会いにくんじゃん。いつも」

「そーだね」

「仲いいッスよね〜」

「えへへ、うん」

「今日はジャッカル先輩なんスね」

「さっきまでは丸井くんと―」




「あ、そーか。丸井先輩、今日はデートだから?」

「え…」



「駅前で見かけたんスよね。綺麗なオネーサンと一緒んとこ」

「……」

「アレって多分、夏に何回か丸井先輩を迎えにきてた人ッスよ」

「赤也―」

「ジャッカル先輩も知ってるっしょ?」

「ばっ、赤也、止め―」

「もしかして、水色の、車の……?」

「ああ、芥川サンも見たことあります?」

「……」

「そういや最近見なかったけど、まだ続いてたんスね」

「……」

「丸井先輩、スパン短いのに、意外に本気なんかなー」

「…短い、の?」

「あれ?芥川サンも知ってるっしょ。とっかえひっかえで、ぜーんぶ年上の綺麗なオネーサン」

「……」

「切れねぇから、あの人すげーよなぁ。なんであんなモテんのか、わかんねーけど」

「……そう、だよね。丸井くん、モテるし」

「芥川、ほら」

「…ありがと」

「赤也も。ブン太の話はいいだろ」

「どーも。さ、美味いコーヒーにトライッスね」



(あ、メールきた………!!丸井くんだ)





>>昨日と今日、色々と楽しかった。
こっちこそありがとう。今年はジロくんのおかげで、ちょーいい年になった。
来年もよろしく。

もう電車乗ったよな?
俺もジャッカルんとこで、家帰るのもうちょっと後だから、ゲームソフト探しとく。
年明けそっちに持ってくよ。<<<




(丸井くん、ジャッカルの、とこって…)





「ほら、もし苦くて飲めなかったら、砂糖あるから」

「…う、ん。ありがと」

「赤也も」

「いや、ストレートで飲み干してみせます!」

「そこそんなに頑張る必要、ねぇだろ」

「ジャッカル先輩や丸井先輩に飲めて、俺に飲めないなんてことは―」

「ハイハイ。頑張れよ」

「よし、芥川サン。全部ストレートでいきますよ!」

「……」

「?芥川サン??」

「…へ?あ、うん。ストレートね」

「よっしゃあ」




「芥川」

「…だいじょーぶ。とりあえず一口目はストレートで頑張るC」

「そうじゃなくて」

「…?」

「ブン太は、そういうヤツじゃねぇから」

「…!」

「お前が一番わかってるだろ?」

「……」

「今のブン太は、真面目で一途で―」

「…前の、丸井くんは、そんなに」

「あー…」

「皆、遊び人って」

「まぁ、…いや、今のブン太が全てだろ」

「ジャッカル…」

「お前の前にいるブン太が、あいつの全てだ。お前に見せてる面に、ウソなんてねぇよ」

「……知ってる、の?」

「直接聞いたわけじゃねぇけど、お前ら見てればわかる」

「……」

「な?赤也の言うことは、気にすんな」

「…オレも、見た。綺麗な女のひとの車に乗る、丸井くん」

「いや、それは―」

「丸井くん、オレにウソつかない?」

「!当たり前だろ。お前のそばにいるブン太は、全部、等身大のアイツだ。
…遊びなワケあるか」

「そう…」






―映画のワンシーンのような、そんな光景だった。パステルカラーの鮮やかな水色の外車に、ぴったりな年上の美人。
手慣れた様子で颯爽と助手席に乗り込む彼は、赤い髪と意思の強そうな瞳が印象的の美形。
『ウソはつかない』という彼の親友の言葉と、彼からのメール文面。そして、彼の後輩が語る話。すべてが頭の中を駆け巡る。
昨日ぶりに飲んだストレートのコーヒーは、今まで飲んだ中では一番香りが良いと感じたけれど、味はやっぱり苦くて。
少ししょっぱいのは、目尻から勝手に零れた水分のせいなのか。ぼやけた視界の先で、慌てる彼の親友とその後輩の姿。






>>12月30日   >>目次

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誰も悪くないんです。。。
こうなってくると会話文なのが苦しい。

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