夏の花火と泡沫の心

夏の花火と泡沫の心 | ナノ


「会長が射的してる姿とか、衝撃的にレアですね」


あまりにも人手が凄すぎて、前に進むことすら困難な小道を何とか潜り抜けて、俺達は比較的空いている射的の出店へとやって来ていた。
一縷はどうしてもあんず飴が食べてみたいらしく(会長と同様、お祭りには初めて来たらしい)俺と会長とは分かれてそれを買いに行っている。


二人とも、案外子供っぽい…


学園にいる時から想像すると、到底考えられない。まるで立場が逆転したような感じ。
多分この状況を写真に撮って親衛隊に見せたら、大変なことになるんだろうなあ、なんてことをぼんやりと考えていると「春乃はどれが欲しいですか?」と会長から声をかけられた。


「会長がいいと思うものを狙えばいいんじゃないですか…?」


「春乃が好きなものを取りたいんです」


やっぱり今日の会長は様子が変だ。
いつもより年相応というか、いつもは見守っていることに自分が入ろうとしているというか。

心なしか表情もいつもと違うような…?


「じゃあ、あの星の置物?がいいです」


俺は一番端に置いてあったブルーの星の置物(?)を指差した。


会長は俺の言葉には答えずにピストルを手に取ると、その美しい横顔に真剣さを宿して引き金を引いた―。


会長の茶色の瞳は、小さく揺れていた。












「凄いですね!会長。一発で取っちゃうなんて」


俺が手に持っているのは今さっき指差した星の形をした置物。
射的なんて確実に初めてやったはずなのに、なんと会長は一発で弾を当ててしまったのだ。
確かに会長は何でも出来る人だと思ってたけど、流石にこれは驚いた。


「春乃」


会長が俺の名を呼ぶ。
薄暗いせいではっきりと見ることの出来ない顔が、幻覚なのか赤く色づいているように感じられた。
常に冷静な表情を浮かべている会長が、何かに動揺している。
それは、間違いなかった。


「…今から私が言うことは独り言だと思って聞いてください。けど、今言わないと絶対後悔するから言わせてほしいんです。
…春乃。私は、あなたのことが好きなんです。どう考え直してもその結論から逃れられなかったんです」


俯きながら会長は小さく言った。
その声は小さかったけれど、ちゃんと芯が通っていて人混みの中でも聞き取ることが出来た。


世界の時が静止して、何の感覚もなくなる。
喧騒も、雑音も、全てが無になって一瞬にして消え去った。


真っ白になった頭で、今言われた言葉の意味を今一度反芻すると徐々に何が起こったのかが理解できた。



…嘘…、


……もしかして俺、会長に告白された?


……会長が、俺を好き……?


嘘、嘘、、え…?
いやいや、嘘だろ…?


「春乃を困らせたくないのに、どうして私はあなたにそんな顔をさせてしまうんでしょう…」


会長の声はとても小さく、掠れたものだった。


「…会長…、俺のこと好きって、恋愛感情として、ですか?」


「……そうに決まってるでしょう」


嘘だろう?という思いは更に大きく、信じがたい気持ちが胸の中で膨らんでいく。
告白されたんだ、ということを認識すると突然胸の鼓動がドキドキと止まらなくなって、今すぐ心臓が飛び出してきそうな程恥ずかしさが襲ってきた。


…どうしよう、ドキドキいってる…


自分の顔が火照って真っ赤になっているのがよく分かる。
すっごい、恥ずかしい…


「すいません、……帰ります、ね」


「ちょっ…、会長っ、」


突然「帰る」と走るように去ってしまおうとする会長を呼び止めるも、周りは人混みだらけでいとも容易く会長の姿を隠してしまう。


「かいちょ…う、」




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