夏の花火と泡沫の心

夏の花火と泡沫の心 | ナノ



その後俺達はカフェへと移動して、学園祭の予算や模擬店について話し合った。
話自体は会長が言っていた通り、時間を取るものではなく一時間程度で終了した。
なのに、お互いにどうしたらいいのか出方を伺っているかのような沈黙が続いていて、この雰囲気に耐えられない俺は意識を紛らわせようとコップに手を伸ばす。

二人から時折ちらちらと向けられる視線に、思わず目を逸らしてどこかに行ってしまいたくなる。

心がむず痒いような、今いる場所が自分の居場所じゃないような、宙から自分が浮いているかのような感覚。
いや、本来あるべきことから逸脱している時間が長すぎて、その本当のことが分からなくなってしまっただけだ、きっと。


コツン、とガラスのコップが机に当たって俺は我に返った。

重なった氷が溶けだしたことによって音を立てて横へとずれる。
コップの側面からは一筋の水滴が零れていた。


「…浴衣の人がいますね」


この状況を何とかしようと、会話に繋がりそうなことをやっとの思いで探し出した。
窓から見える風景には、色とりどりの浴衣を着て歩いている人が幾人か窺えたから。

もしかしたお祭りが開催されているかも、と思ったが、そのもしかしたらが見事に的中したらしい。


神社を貸し切って開催されている割と大規模なお祭り。


その知名度もあってか(そういうことに疎い俺でも知っていたくらい)、駅の方向からは浴衣を着て楽しそうに歩いてくる子供や大人がちらほらと見られる。



カフェの真向かいに神社があって、建物の中からでもどんな出店が出でいるのか、そして人々が楽しそうにはしゃいでいるのがよく見えた。


夏の数日間だけ魔法がかかったように、煌びやかな風景が瞬く間に姿を現す。
少しだけ薄暗くなりかけている空間に、提灯の灯がほのかな光を添えていた。


「…行きますか?」


お祭りとは一番無縁そうな会長が驚くべきことに声を発した。


「会長、お祭りとか興味あるんですか…?」と一縷がポツリと漏らす。


本当にその通り。俺だって会長がこんなガヤガヤした場所を好き好むとは思えない。


「行ったことがないので分からない。というのが実際のところです。…でも、この雰囲気は嫌いじゃないですよ」


せわしなく並んだ屋台の数々に、お面をつけて走り回っている子供達。
香ばしい焼き鳥の匂いに、すぐ隣には鉄板の上で焼かれているお好み焼き。
ふわふわした綿菓子の屋台の後ろには、金魚すくいをする為に列をなしている子供達がいる。

キラキラワクワクの散りばめられた刹那の世界。


「…行きましょうか」


気が付いたら口からそう滑り出ていた。




いかにも楽しそうで、カラフルな空間。今までの自分だったら絶対に「行こう」だなんて言わなかったはずなのに、今この瞬間を純粋に楽しみたい、と思ってしまった。



それはあまりにも自然な感覚で、一瞬たりとも疑問に思う隙を与えなかったのだ。



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