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それから約一年が経ち、俺は大学二年に進級した。

月日が過ぎ去るのは一瞬だな、とつくづく思う。
俺が歳を取って感性がおかしくなったんだろうか?分からないけど、この一年が過ぎるのはめちゃくちゃ早かったような気がする。

正直大学を舐めていた俺は「単位なんて楽勝で取れるに違いない」と完全なる誤解を起こしていた。たまに授業に出れば単位なんて余裕で取れんだろ、と思っていたのだが。

前言撤回しよう。無理だった。
出席はあるし、必修授業は大量にあるし、発表はあるしで本当に大変だった。
舐め腐ってたら卒業できないじゃねーか、と焦った俺は真面目に学校に通う羽目になり、必死になっていたら一年が経過していた。
サークルの活動もあったし、結構密度の濃い一年だったような気がする。

―あー、千里は出席ない授業ばっかで羨ましい…

そんなことを考えつつ、耳に突っ込んでいたイヤホンを外しながら学内を颯爽と歩く。
地面に落ちた木々の葉っぱが雨のせいで水浸しになり、元々は茶色だったはずなのにどす黒く変色していた。頭上を見上げると、生い茂った立派な樹木からポタ、ポタと雫が地面へと叩きつけられている。雨の雫が葉っぱに落ちると、その葉っぱは下方へふわっと揺れ動いて、そしてまた元の位置へと戻る。

雨上がりの校舎は趣があるように感じられて、歩いているとワクワクしてくる。
自分の名前に雨と雫が入っているからなのか、滴り落ちる雨粒を目にする度に心が浮き立つのさえ感じる。
空から雨が零れ落ちるって、自然の神秘のようで凄く幻想的だと思うんだよな。周りの奴は口々に「雨なんて嫌い」と言うけれど、そんなに悪いものじゃないと思う。

「おー、綺麗」

数多もの雨粒が地面に小さな水たまりをいくつも形作っていくのを見守りながら、俺はほぼ無意識に呟いていた。

「…こっちが…です」

―あれ?今誰かの声が聞こえた?

学内なのだから人の声が聞こえて当たり前なのだが、このあまりに静かな状況下においては、ほんの小さな声でさえ浮き立って聞こえるのだ。

「広いですね、すごい…」

心を一瞬でギュッと鷲掴みにする、低すぎも高すぎもしない心地よい声が背後から聞こえてきて、思わず俺は後ろを見やる。

そして、時が止まるかのような感覚に襲われた。

―う、わ…、綺麗な人…

汚れなき綺麗なものだけをかき集めてそれを人間にしたらこうなった。まさに、そのような人間がイチョウの木の背後に佇んでいた。
遠目でもその綺麗さと艶やかさが群を抜いているのが分かる。



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