Lily【百合の花】





「ども、失礼します」

俺は千里と別れた後新歓勧誘を巧いこと潜り抜け、「文芸部」の看板が掛かっている扉を開けた。

それにしても、大学って想像以上にガヤガヤしている所だ。門を入った時から感じてたけど、活気が凄い。
中学とか高校とは比べものにならない人数だし、何と言っても自由という雰囲気がところかしこに蔓延している。それに応じるように、俺の心も否応なしに湧き立つのが分かった。

「見学の方ですか?」

殺伐とした狭い部室の奥の方に立っていた女性が驚いた顔をして俺に話しかけてくる。

「見学、というより…入部したいんですけど」

「…え、入部?他のサークル見学はしなくていいの?しかもあなたみたいなオシャレンティなイケメン男子がここに入部?」

「ははっ、オシャレンティなイケメン男子って何ですか。最初から決めてたんで、ここに入部するって。あ、俺、雨谷雫月です」

その女性はぽかーんとした顔をしたかと思うと、一瞬で花を咲かせたかのような笑顔になった。

「雨谷君!あなたのような日本男児がいるなんて日本はまだ捨てたものじゃない!」

「大袈裟ですよ。文学好きの人って結構いるんじゃないんですか?ほら、見学してる人だって結構いるし…」

「それがねえ」と彼女は呟くと、物悲しそうな表情を浮かべながら「見学はしてくれるんだけど、なかなか入部してくれないのよ。読むのはいいけど書くのは無理です、って言ってね。だから部員はそんなに集まらないの」と言葉を続けた。

「そうだ、自己紹介がまだだったね。私は小寺蓮華。文学部の二年なんだけど、雨谷君は何学部?あっ、ちょっと待った。今から当てるから。…うーん、そうだなあ、経済学部だ!」

びしっと指を差されながら自信満々に言われたけど、残念ながら俺は経済学部ではない。
友達や以前付き合ってた彼女にもよく「えー、意外」と言われたけれど、俺が文学部なのはそんなにおかしいか?
本を読んだり自分の想いを言葉にしたりするのは嫌いじゃない。寧ろ好きだったからこの学部を選んだのだ。

「思いっきり外れてます。文学部ですよ、俺。日本文学専攻です」

「う、嘘お!ギャップ萌え!」

「そんな驚かないでくださいよ。俺だって一応気にしてるんですから。
…それより、蓮華ってもしかして文芸誌に載ってたレンゲと同一人物ですか?」

「…嘘!知ってるの?」

「はい。俺、去年の文芸誌を読んで文芸部に入ろうって決めたんです。すっげえ綺麗な文章書く人がいるな、俺もここで小説を書いてみたいって」

文化祭でレンゲの紡ぐ言葉を目にした時、思わず息が詰まった。
言葉と言葉の繋がりとか、感情の表現の仕方とか、とにかく文章が綺麗で他の小説とは一線を画してた。彼女の書いた文章は紙から浮かび上がって見えて、キラキラ輝いてるように見えたんだ。

「うわああああ神様あ…!私今日まで生きてきてよかった!まさか私の書く話を読んでくれてる人がいるなんて!しかもそれで入部を決めてくれるなんて!」

彼女、蓮華先輩は俺に勢いよく抱きつくと、「君に出会えてよかったよ!今日は飲み倒そう!飲み会飲み会!あ、でもお酒は駄目だよ」と大きな声で言う。
なんだか、騒がしい人だな…。

面白いからいいんだけど。あの文章からは到底考えられないイメージで、あまりに新鮮というか。意外すぎる。



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