Lily【百合の花】







「桜舞いやわらかな風が大地に息吹く今日この頃、春の訪れを―」

入学式が始まり、内心「早く終わんねーかな」と心底退屈していると、凛とした声が式場内に響き渡った。
新入生代表の挨拶か、ごくろうなこった…と思いながら何の気なしに前を見ると、思わず俺は目を見張ってしまった。

壇上の上にいたのがさっきの優等生だったからだ。
やっぱりな、頭良いに決まってるよな。見た目は中身と比例するよな、と妙に納得してしまう。

寧ろあいつより適任なやつはいるのだろうか?と思う。
いないだろ。もしあれで中高時代に生徒会長とかやっていたとしたら笑ってしまう。あまりにも期待を裏切らなくて。

「―私立城ケ崎大学新入生代表。多田樹」


―ただ、いつき…?多田いつき?多田樹…?
名前は案外普通なんだな、と少しだけほっとした。

「あの人めっちゃかっこよくないー?」
「かっこいいっていうか、綺麗だよね」
「彼女いるのかなあ?」

俺の後ろに座る女子生徒達数人がそいつについて話しているのが嫌でも耳に入ってくる。
確かに、あいつの顔は俺が今まで出会ってきたやつの中で一番整っているし、話題にしたくなるのは当然だと思う。

…だけど、俺にはあいつが叫んでるように見えた。

凛と澄ました顔が、明るい壇上で悲痛に歪められ俺の方を向く。
ふわっと笑った表情の下に隠された棘の刺さった心が、見えてしまった。
優しく丸められた褐色の瞳孔が一瞬悲しみを宿して泣きそうに揺らめいた時、俺は本能的に確信した。
「こいつは心から笑ってない」って。

なんで一瞬見かけただけで分かんだよ、おかしいじゃねえの、って?
俺だって、おかしいと思うよ。話したこともない、ほんの数分見かけただけの奴のことが頭から離れないなんて。

けど、しょうがないじゃんか。
あいつと一秒にも満たない間目があった瞬間、その瞳は訴えてた。

―自分の存在を。
―猛り狂う感情を。

純粋で無垢な百合の花の叫びが聞こえたんだ。



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