夏の花火と泡沫の心

夏の花火と泡沫の心 | ナノ


「早いもので、今日で一学期も終了です。これから夏休みが始まりますが、体には気を付けて、羽目を外し過ぎないように過ごしてください。
まあ、若いうちは冒険することも大事だと思いますが…」


夏休みの始まりを知らせる挨拶が、遥か彼方に聞こえる。
俺は夏休みが始まる、ということなんかより四月から今までに起こったことに思いを巡らせていた。


一縷に、会長に、生徒会のメンバー二人共に素を晒してしまった。
確かにどちらとも不可抗力であると言えばそうなのだが。

俺のこの姿が偽りであるということを知ったはずなのに、二人とも何も深いことを追求してこない。
心にかけた鍵と、他人と深く関わらないと決めた感情を見透かされているかのように。
これ以上踏み入れてはいけない、というギリギリの境界線を理解されているように。




そして最近では、生徒会室にいる時はあの口調でいることをやめた。
あの小坂との一件があって以来、会長に知られてしまったこともそうであるが、“副会長”であることが正直苦しくなって。
皆に「お前は本当はこんな奴じゃないんだろ」と言われているような気がして、ふとした拍子に自分が何なのかが分からなくなる。

けれど、会長と一縷の二人以外の前ではいつも通りにしているから、自分に「俺は大丈夫」とある種無理強いの念じをかけている。





「…では、私からの話は以上です…」



いつのまにか話が終了して、夏休みだ!、というワクワクとドキドキが混ざり合った特殊な空気が空間中に流れわたっていく。

普段の生活から解放されて、自由を謳歌できる学生の特権。
大人になってしまったらもう二度と経験することの出来ない貴重な時間。
楽しみじゃないほうがおかしいんだ。


「やっと夏休みですね!テストが大変でどうしようかと思いましたけど、やっと家に帰れるんだってほっとします」


斜め後ろに立っている優李が俺に対して小声でそう言った。


「うん、本当にねえ〜。この学校やたらに科目数多いもんね〜、でもゆうゆうなら大丈夫だったでしょ?」


「なんとか…なったようなならなかったようなそんな感じです…春乃様はどうでしたか?」


「俺はまあまあかな〜」



「春乃様は器用ですから、やっていないように振る舞っていても誰よりもちゃんとしてること、僕分かってますから」


優李は時々こうやって全てを見透かしたようなことを言う。
表面だけじゃなくて、内面を見られてるんだ、ということが分かって嬉しいのに、苦しくなる。



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