一縷視点。

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けれど。


「一縷っち〜よろしくねえ」


着崩した制服に、耳にはピアス。染められた髪の毛に、間延びした喋り方…
俺の嫌いなものを全て身に着けた奴が俺の目の前に現れた。

俺は別に、会長を独占しようとしていたわけじゃない。
望んではいけない程大きなことを望んだ訳ではない。
そばにいることを望んだだけだ。


高校から編入してきたあいつ、桜川春乃は一年足らずでいとも簡単に生徒会の座に上り詰めた。


何なんだよ、こいつは。
いつどこにいても目立つ風貌。常に誰かに囲まれていて、馬鹿みたいにヘラヘラ笑っている。

会長はこんな奴と一緒に行動することになって嫌じゃないのか?
何で皆はこんな奴のことを支持したんだ。俺の方が絶対、間違いなく上手くやっていけるのに。


風紀は乱す、敬語は使わない。
いいところなんて一つもないだろう。


絶対、俺の方が副会長としてちゃんとやっていける。
会長を、支えることができる。



そう思えば思う程、俺は桜川のことが大嫌いになった。
彼のことが嫌いだという態度を出せば出すほど、会長は俺に対して悲しく思うと分かっているのに、どうしても当たりが強くなってしまう。
会長は優しいから人を見た目で判断したりしないのに、俺はそれをやめることができない。


生徒会の雰囲気を悪くしているのは会長でも桜川でもない。


この、俺だ。




そのことを自覚すると、俺はどんどん自分のことが嫌いになった。
会長が桜川と笑顔で話しているのを見る度、彼もまた会長を慕っているのを見る度、見えない線を引かれてしまった関係性の隙間が、ますます大きくなっていく。
これ以上大きくなってしまったら、きっと立て直すことはできない。


一人悶々と自問している時だった。


桜川の顔が時々悲しそうに歪められていることに気が付いたのは。


今まで見ようともしてこなかった顔を、ふとした瞬間に見てしまった。
言ってしまえば、これだけのことだ。


彼はいつものようにヘラヘラと笑い、そして皆と楽しそうに話していた。
けれど話していた人と別れ、一人になった瞬間、彼の顔は今にも泣きそうに歪められた。

見たことのなかった瞳は、空虚だった。
ぽっかりと空いた真っ黒な闇。その瞳には何も映っていない。
すぐにその表情は元へと戻ったが、俺の脳裏からは悲痛な表情が消えることはなく。


「あれが、桜川…?」


俺の呟きは誰に向けれられるでもなく、閑散とした廊下に吸い込まれていった。



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