一縷視点。 | ナノ
この人と一緒にいたい。
この人を支えたい。
初めて見かけた相手なのに、甲斐甲斐しくもこんなことを考えてしまう程に、目を奪われ、心を激しく掴まれた。
「あー、その人絶対会長だよ。多田樹会長。この間会長になってからかなり騒がれてるよ。というか一縷、会長の顔知らないの?こんなに有名なのに」
恥ずかしいことに俺は、全く学校に興味がなかったので生徒会長の顔さえ知らなかった。
俺には関係ないのだから、どうでもいいと思っていた。
もし俺が生徒会に入れば、あの人といられる?
一緒にいて支えることができる?
ドキン…っ…
自分とあの人が一緒にいるところを想像しただけで胸が高鳴った。
生まれて始めて、こんなにも誰かの側にいたいと思った。
あんなにも美しい人の近くにいられるなら。
それ以上に嬉しいことはない。
「あれ、もしかして一縷も会長に惚れちゃった?あの人あれだけ整った顔立ちだからかなりもててるんだよ」
「…違う」
この感情は、純粋な尊敬の念だ。
好きとは違う。見ているだけで十分なんだ、高嶺の花は。
それから俺は、会長と一緒にいたい一心で生徒会に入ることを決心した。
生徒会に入るには成績が優秀であることは勿論、生徒からの信頼がなければならない。
今まであまり積極的に人と関わろうとしてこなかった俺は、生徒からの信頼を得ることに非常に苦労した。
他人との関わり方。
自分という人間を売り込んで認めてもらうこと。
その全てが経験したことのないことで、俺はとても戸惑った。
生徒会なんて、入らなくてもいいんじゃないかと思うことも多々あった。
きっと俺には、人前に立って皆を統率することは向いていない。
会長みたいに、皆に尊敬される存在にはなれない。
幾度も、幾度もそう思った。
だけど。
その思いが幾度と重なる度に、会長の美しさが俺を魅了した。
忘れられない、忘れたくない眩しい姿が、俺を変えた。
そして高校一年の冬。
俺は、生徒会へ入ることになった。
望んで望んで掴んだ、夢のような扉だった。
これで俺は会長を支えることができる、傍にいることができる。
考えただけで、ウキウキと胸が騒いだ。
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