一縷視点。

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「そのピアス、すごい綺麗だな」


ベッドと勉強机しか置いていない殺風景な部屋で、目の前に座る桜川にそう声をかけた。

蛍光灯に反射して青みがかって見える髪がサラサラと揺れる。
夜空のように美しい瞳もまた光を取り込んで、まるで星空のように見えた。
少しだけ髪から覗いている桜の花びらのような淡いピンク色のピアスが、とてもよく似合っている。

こいつを取り巻く空気全体が、不思議と幻想的に見える。


「…ありがとう」


小さく返された言葉は、少し震えていた。


泣き腫らした目は赤く腫れていて、見る者の心を抉る。
白い肌に残る赤く擦った跡が痛々しい。
そういえば、いつもより肌が白い気がする。

そのことについて尋ねようかと思ったが、「やめておこう」と思った。偽っていたものを更に知るだけだ。


今日の一件で、桜川が自分の姿をこれでもかという程偽っているということがよく分かった。容姿も、性格も、全てに至るまで作られたものだった。
そこまでして偽って、「本当のこいつは何なんだ?」と思う程に、何もかもが嘘で塗り固められていた。


こいつは多分、変化が訪れることを恐れている。


強く、激しく。















俺、住之江一縷はチャラチャラしたやつが嫌いだ。

昔から、そうだった。
着崩した制服に、耳にはピアス。染められた髪の毛に、間延びした喋り方。
そのどれも、俺をイライラさせる。
友人にするなら間違いなく真面目な奴がいいに決まってる。

それなのに、俺が通っているこの学園は風紀に関する校則がやけに緩かった。
進学校なので、勉強ができればいいということなのだろう。
チャラチャラした奴を見る度に、吐き気がした。


エスカレーター式のこの学園は閉鎖的で、俺は昔からこの独特の雰囲気が大嫌いだった。
一刻もはやくこの箱庭から抜けだして、早く自由な世界へ行きたい、と願っていた。






けれど中学二年のある日、俺の運命は変わる。

教室の前を歩くあの人を見た時、なんて美しい人なんだろうと思った。
綺麗な世界に生きている、潔白で無垢な百合の花がよく似合う、そんな美しさだった。

きっちりと閉められた制服のボタンに伸ばされた背筋。優しげな目元には知性が宿っている。


俺の理想がそこにあった。




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