強まる雨足、喜雨の調

強まる雨足、喜雨の調 | ナノ

「どうして…っ、どうして優しくするんだよ…やっと、やっと自分をしまい込んで自分が誰なのか分からなくなって…
そうすればっ…!全部上手くいくと思ってたのに!上手くいってたのに…!どうして邪魔するんだよ…お願いだから、俺を壊さないでくれ…!」


たった一言言葉を紡いでみれば、作り上げてきたものがボロボロと音を立てて崩れていくのが分かった。
会長は何も悪くないのに、俺は心の中の不安や憤りを会長にぶつけてしまった。もう俺は、自分が一体何者なのか皆目分からなくなっていたのだ。


「どうして……どうして…」


会長の胸の中で、俺は言葉にならない疑問を唯々呟いていた。


「…どうして、はこっちのセリフです…」


永遠に続くかのような息苦しい沈黙の後、会長が静かにそう言った。


「そんなにボロボロになるまで自分を殺して頑張り続けるなんて、どうして一人で背負いこもうとしたんですか…?」



どうしてなのか、俺はその疑問に答えることが出来なかった。


自分を殺すことでしか、生きていけなかったから。目を背けながら目を向ける矛盾した行動しか、することができなかったから。
死んでしまう程に、苦しかったから。


この感情を他人に晒すには、俺はまだあまりに脆すぎる。






………ポツリ。



……ポツリ。




「え?」と口に漏らしながら頬に突然落ちてきた雨粒に目をやる。

会長からそっと離れて空を見上げると、灰色の雲がすぐそこまで迫ってきていることが伺えた。
というよりか俺達のいるところまで既にその雲はやってきていた。


ポツリ、ポツリ。


雨に濡れない屋内へ逃げればいいのに、天空から舞い降りる水滴に目を奪われてその場から動くことができなくなった。

雨粒は頬を濡らし、服を濡らし、髪を濡らし、息つく暇もなく体中を侵食していく。


本格的に降り始めた雨が体中を濡らしていくのが分かった。


肩についた水滴の色が茶色がかっていることに気が付いたとき、本当は焦らなければいけないのに、何だが不思議と心の大きなモヤモヤが小さくなったように感じた。
会長が、黒くなりかけている俺の髪を見て、唖然としている。


「…ばれちゃいましたね、…」


自嘲気味に小さく笑いながらそう言うと、胸の奥底が小さく揺れた。


知られてしまった泡沫の心を濡らして溶かしていくかのように、雨は強く強く降り続いていた。



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