強まる雨足、喜雨の調

強まる雨足、喜雨の調 | ナノ


鍵を、閉めないと…っ…


こんな所まで会長が追ってくることはないだろう、と完全に油断していた。
会長にとって、俺の存在がそこまでして助けなければならないものだとは思えなかったからだ。


「…っ、…の…はるの!」


けれど、扉を閉めかけたその時、会長の大声が耳に入ってきた。



……嘘、だろ……?



「春乃…!閉めるな…っ…!」


聞いたことのない会長の大声に、体が見えない力に操られているかのように動かなくなる。


嫌だ、…嫌だ……っ、来ないで…!
無意識に涙が零れたのと、会長の手が俺の手を掴んだのはほぼ同時だった。


「やだ…来ないで…お願いだから…」


ポツリ、と涙が零れた。自分でも気が付かないうちに、俺は泣いていた。
止めたくても止まらない涙が地面へと落ちていく。
さっきはちゃんと止められたのに、それが嘘だったかのように涙の粒が溢れ出してゆく。


会長が驚いたように俺を見ているのが分かった。



ああ…最悪だ。こんな姿を人前で晒すなんて、本当に…



「大丈夫だから、泣かないでください…あなたが泣いていると、どうしたらいいか分からなくなるんです」


気づいた時には俺は会長に抱きしめられていた。その驚きよりも、会長から感じられる暖かさや、鼓動の音に不思議と関心がいく。


「会長…?俺はだいじょーぶだよ…」


精一杯自分を繕って、やっとのことで言葉を絞り出した。
大丈夫、大丈夫。会長から俺の顔は見えていないんだから、このぐちゃぐちゃの顔を見られることはない。
気づかれちゃいけない。駄目だ、駄目なんだ。だって俺は副会長なんだから。


弱くてボロボロの春乃は自分の心に鍵を掛けて誰にも見つからないようにしまい込んでおかなくちゃいけない。
もしそうしたことで、本当の春乃がどんな存在だったのか分からなくなってしまったとしても、それでいい。


しまい込んで、しまい込んで、しまい込んで、本当を隠して偽りをずっと演じていれば、偽りも本当になるんだよ。きっと。


「あなたが心配なんです…。…私にはわかりません。あなたが何を抱えているのか、何を恐れているのかも。
でも、でも…、それがどんなものであっても、自分を偽る必要なんてないじゃないですか…」


「…っ、心配、…なんて…いらない…」


俺はもう、涙でぐちゃぐちゃで言葉を紡ぐことも難しくなっていた。


「心配するしかないじゃないですか!そんな、そんな苦しそうな泣いていたら…」


何も言葉が出なかった。これ以上泣いちゃいけないと思っているのに、とめどなく涙が溢れて会長の制服をどんどんと濡らしてゆく。



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