強まる雨足、喜雨の調

強まる雨足、喜雨の調 | ナノ






頭に走る痛みと、カーテンから覗くまぶしい光が徐々に俺を現実へと引き戻す。



……ら…がわ…、…桜川!
……大丈夫ですか、…



会長が発する大きな声に導かれるように、夢から醒めた。
まだぼーっとする頭で周りを見渡しても、ここが保健室だということは明らかだった。


俺が寝かされている無機質なベッドのすぐ脇には、心配そうな表情を浮かべた会長がいる。


「かいちょー、どうしたのお?」


あまりにも深刻そうな表情をしている会長は、いつも俺に向けている姿とは全く違っていて、「俺のことなんて心配しないでよ」という言葉が出かかった。


「…桜川、あなたは一体何を抱えているんです。さっきのあなたは、普段とは全く違っていました。あれを見てしまったら、チャラチャラした姿は偽りだとしか思えない」


いつもは目が合うことさえ少ないのに、瞳をまっすぐに見つめられながらそう言われると、何という言葉を返したらいいのか全く分からなくなった。
頭が真っ白になって、繕っていた全てのものが壊れてしまう気がした。


「やだなぁ―、かいちょー、そんな深刻な顔しちゃって。久しぶりに中学の時の知り合いに会ったからビックリしただけだよぉ。
それにちょっと寝不足だったからねぇー、疲れが一気にでちゃったのかも。恥ずかしいところ見られちゃったなぁ…。だからかいちょー、俺のことなんて心配してる暇があったらもっと他の」


「じゃあどうして、そんなに辛そうな顔をしてるんですか」


会長とまた目が合う。その瞬間、息が出来なくなる程胸が痛んだ。


「かいちょ…何言って…」


ああ、もう駄目だと思った。
この空間から逃げなくては…そうしないと、このままだと、壊れてしまう。
壊れてしまったら困る。


だから、だから。
今にも零れそうな涙を必死に堪えて俺は逃げた。


会長に「桜川!」と手を掴まれたけれど、馬鹿みたいに強い力で振り払ってただひたすらに走った。
扉を開けて、階段を駆け上がって、どこでもいいから逃げたかった。


知られちゃいけない、本当の俺がバレてはいけないんだ。
本当を曝け出してしまったら、二度と元に戻れなくなる。
俺は弱いから、優しい世界を知ってしまったら塗り固めていたものが壊れてしまう。過去に侵食されてしまう。


全速力で階段を駆け上がると、屋上の扉を勢いよく開けた。



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