強まる雨足、喜雨の調

強まる雨足、喜雨の調 | ナノ
―――――――――――――――――
―――――――――――――――




あれは紅葉が色付く季節のことだった。
暖色が醸し出す温かさとは対照的に俺の生活は白黒の世界でしかなく、何の楽しみもなくて、ただただ過ぎていく日々を感じていた。


―そんな、13歳の秋。


当時の俺は社交的という言葉からは到底かけ離れていて、端的に表せばただのつまらない真面目な優等生で、当然のことながら周りに人が寄ってくるということはなかった。


それでいいと思っていた。
だって、人と深く関わる勇気も、もしも裏切られてしまった時に生じる悲しみに耐える心も、持っていなかったから。
俯瞰者でいれば、楽しみがない代わりに悲しみも生じない。面倒事にも巻き込まれない。


俺は平和でいたかったのだ。
それが独りよがりだということにも気づかずに。




そんな時、君は現れた。
モノクロの境界線を打ち破って、その屈託のない笑顔を浮かべながら、俺をあっちの世界に連れて行ったんだ。



…そうだろう?なあ、秋。









町屋秋は学校中でも一位二位を争う有名な奴だった。
その見た目は勿論のこと、皆を惹き付ける圧倒的な存在感で一年にして副会長に推薦されたからだ。


金髪、カラコン、着崩した制服。
それでいて、それが妙に彼には似合っていた。
こんなに風紀を乱しているのに、皆は彼のことを慕い、着いて行こうとする。

たぶん俺は自覚していなかっただけで、そんな彼のことを羨ましいと思っていたのだと思う。


殻を打ち破りたいと心のどこかでは望んでいたのだ。
それを意識しようとしていなかっただけで。




屋上の隅っこ、日の当たらない寒々とした場所は俺のテリトリーだった。
静かで、自分だけの、誰にも邪魔されない秩序の保たれた空間。


俺は教室が大嫌いだった。


…何故って?


だって、日の当たる場所にいる皆と、そこにいない俺に引かれた境界線を嫌でも感じることになるから。
そして、そこに手を伸ばす努力をしない自分が更に大嫌いになるから。
嫌いで、嫌いで、自己嫌悪しかできなくなる。









「なあお前」


最初はまさか俺に話しかけているなんて全く思わなかった。


「なあ、ってば!」


ふと顔を上げるとそこには茶色の目をした奴がいて、しかも金髪で、よく見ると学校中で噂になっている奴だということが分かって、正直「うわ、関わりたくない」と思った。


「…僕、ですか?」


最悪だ、と思いながら小さな声でそう言うと、そいつはニカっと太陽みたいに笑うもんだから、俺は呆気にとられた。
小さな影の空間に、大きな光が差したような気がした。


「そう、つまらなそうな顔してるお前のこと」


「…え?」


「そんな怯えた顔すんなって!別に苛めて金を集ろうなんて思ってないからさ。
俺は町屋秋。お前さ、名前は?」


何故だか心臓が高鳴る。自分でも信じられないくらい、胸が騒ぐのが分かった。
茶色の瞳に藍色の瞳が映り込んだのが見えた。



世界が変わったような気がした。



[36]









第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -