強まる雨足、喜雨の調

強まる雨足、喜雨の調 | ナノ






「桜川、申し訳ないのですがこの資料を一年A組まで持って行って頂けますか」


生徒会室で資料を整理していると、会長に突然声をかけられた。



今日は、珍しく晴天だった。
久しぶりの好天気に、じめじめした空気が嘘だったかのように消えていく。
窓から降り注ぐ光は、ガラスに反射して屈折していた。


「いいですよお〜何の資料ですかあ?」


「入学の案内と、学園で生活を送る上での注意事項です。…この生徒…、小坂君と言うんですけど、父親が入学する日に大病で入院してしまったみたいで。父子家庭のようなんです。だから、今まで看病に追われて学校に行けていなかったのですが、先日退院できたようでやっと来られるようになったみたいです」


「特待生枠での入学ですね」と会長は言葉を続ける。


妙な胸騒ぎがした。



……小坂…?



「高校からの入学はただでさえ珍しいので、彼も色々と苦労すると思うんです。桜川も高校から入学してきたでしょう?だから彼の相談にも乗ってあげられるかと」



「そうですね〜…じゃあ、その小坂ちゃんの所に行ってくればいいんですねえ?」



考えるな、考えるな。
違う、絶対に違うから…



「はい、宜しく頼みます」

















「このクラスに小坂ちゃん、って子はいるかなあ?」


一年A組のクラスの扉を開け、身を乗り出しながらそう言うと、クラス中がざわざわと煩くなったのが分かった。
「副会長だ!」「春乃様だ!」という声がそこかしこから聞こえてくる。


「…僕ですけど…?」


教室の奥の方から小さな声がした。



…この声…?
知っている、と瞬間的に感じた。


俺は、この声を聞いたことがある。


小坂ってもしかして…
嘘だろ…こんな偶然が、あるのだろうか?


「春乃、って…」


目の前までやってきたこの人を、俺は知っている。
人懐っこい笑顔を浮かべるこいつを、俺は。


「…もしかして、春、先輩?」


パサリ、と手に持っていたものが落ちた。


嘘だと思った。これが現実だと思えなかった。
地面がグラリ、と揺れるような感覚に襲われると共に猛烈な吐き気に苛まれる。


…なんで…なん、で?


何で。せっかく、せっかく作り上げてきたっていうのに。どこかにやってしまおうとしたのに。
忘れたいのに。全部全部、真っ白な世界に行けば違う俺でいられるって、思ったのに。


どうして、いるんだよ…


どう、して…?



[34]






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -