強まる雨足、喜雨の調

強まる雨足、喜雨の調 | ナノ



「にゃあ〜」


自室へ着こうかという時、背後の茂みから雨音に混ざった微かな鳴き声が聞こえた。
「猫?」と思い乗り込むようにして茂みの中を覗くと、そこには真っ白な小さな一匹の子猫がうずくまっていた。


「にゃーにゃー」


「…こんな所にいたら、冷えちゃうよ」


そう子猫へ話しかけるも、全く微動だにしない。
寧ろ、更に丸まってブルブルと震えている。
閑散とした学園内が、その寒さを表現しているようだ。


「…ちょっと、ごめんね」


優しく子猫を手で包み込むと、落とさないようにゆっくりと抱き上げた。


片手には傘、もう片方の手には子猫、そして脇には本。
体制的には確実にきついけれど、胸の中で小さく「にゃー」と鳴いているのを見たら、そんなものはどうでもよくなった。


「かわいい…」


やっぱりこのまま無視しないでよかった、と思う。
素通りしていたら雨で水浸しになって、凍え死んでしまったかもしれない。


「ほら、ここなら濡れないからここに住みなね?」


俺の住んでいる白く小さな倉庫(?)の屋根が出っ張っている真下は、少し錆びれてはいるものの濡れることはない。
人が来ることもなく、安全だし。

毎日様子を窺えば、きっと元気に成長していくだろう。



毛布にくるんであげよう、とドアを開けようとした時。
ザアザアと音を響かせていた雨が突然ピタっとその音を止めた。

一瞬で、世界が静寂に支配される。



空を見上げるとさっきまでは分厚い雲で覆われていたはずなのに、太陽が存在を露わにしていた。


雲の隙間から覗いている眩い太陽の光。
そして、そこに覆いかぶさるようにしてキラキラと光り輝いている虹。
始まりの場所も、終わりの場所も見えない虹は七色の光を放って広大な空に架かっていた。

手を伸ばせばすぐに届きそうな気がするのに、遥か彼方にあるそれに決して手が届くことはない。


「…綺麗だ」


小脇で小さくうごめく子猫も、それに応えるかのように「にゃあ」と鳴き声を発する。


「お前もそう思うの?」


「…にゃー」


「…思うんだね」


小さな笑みをこぼしながらフサフサ毛並みを撫でていく。

日常のこんな一瞬が、こんなにも心を温めれくれるなんて思わなかった。
太陽が隠されているから雨は嫌いじゃなかったけれど、雨の後の晴れ間も案外悪くないものなのかもしれない。


美しい憧憬を目にしてしまったら。


少しだけ早い喜雨の調を感じたような、そんな気持ちになった。



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